真昼とクロ.end ページ19
クロが腕を振ると手品師は飛び退く。刺さっていた剣を抜いた際のぬちゃっという生々しい音が鼓膜にこびりついた。
「お前……!」
「まあ落ち着け脳筋……二回飛び出して二回やられそうになるとかアホかよ」
「あ゙?」
相手のこの場にそぐわない言動により焦っていた俺の鼓動が少し収まる。
なぜ罵倒してくるし。つーかこいつ二回も脳筋って言ったぞ。しかも最後にアホっつったぞ。
なんて軽いことを考えてみるけど、状況はあまり良い方向に進展してるわけではない。手負いの吸血鬼と人間、敵は一人だが見た感じ好調、先程瓦礫の下にいたとは思えない。数でなら勝ってるし、いけるか……? と思って手品師を細目で見据えていたら隣からボソリと声が聞こえた。
「逃げとけ。オレ一人でどうにかできる気はしねーけどなー……」
クロの言葉を聞いた瞬間、昔の情景が――叔父さんとの約束が俺の頭をよぎる。
『俺一人でどうにかできる気はしねぇよ。つーか、力不足だろ。この穴は俺たちじゃあ埋めきれねぇ。……でも、二人で頑張らなきゃなぁ。俺も頑張るからお前も頑張れ。それでどうだ……真昼』
――あぁ、そっか。シンプルな話だったんだ。
「ま……猫は猫でも死なねー猫だし」
今その「誰か」は「俺」でも「お前」でもない。きっと――
「時間稼ぎくらいなら……」
「俺とお前」だ。
その言葉がよぎった瞬間、俺はクロし自身の腕を噛ませていた。ブスリと肉に鋭い牙が刺さる感覚。痛いはずなのに、今はそれが全く気にならなかった。
「二人でどうにかするんだよ! クロ!」
次の瞬間、家で仮契約を結んだときのような――いや、それ以上に目映い水色の光がぶわっと放たれる。体内に何か別の力が流れ込んでくるような感覚に肌がビリビリした。
「……お前みてーな奴が、一番めんどくせーんだ」
――城田真昼、十五歳。シンプルなことが好き、面倒っつーか小難しいことは嫌い。
「でもしょうがねー」
だから猫を拾った。
「お前が
猫――だと思ってたんだけどな。
「……困るなァ〜〜契約しちゃったァ……。ああでも、へェ……真祖は契約するとそうなるのかァ」
新しく飼うことになったペットは――
「
――吸血鬼らしい。
「
『やっぱり君は』
それは、耳鳴りのように響く、心地の悪いもの。聞いたことはある気がするけど、どこで聞いたのかも思い出せない。
『変われない』
そんな嘲笑う声が、聞こえた気がしたんだ。
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