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【及川徹】今日という日は今日しかない・1 ページ48

*


今日がいま、ここにある。



「……及川、」


どうして名前を呼ぼうと思ったのかはわからない。ただ、私の後ろに座っているはずの、あいつの声が聞きたかっただけなのかもしれない。

他の部員と同じように眠っていると思っていたから、期待などはなかった。なのに、少し遅れて「……ん、A?」と、まだ眠そうな声が聞こえた。


帰りのバス。疲れて、ただ疲れて。最後の笛でどっと疲労感が出てきた気がする。

ただ、一番はみんな泣き疲れたのだと思う。


「どうか、した?」

「いや……ごめん、起こした?」

「大丈夫だよ。さっきまで寝てたけど」

「そう……」


少し耳をすませば、安らかな寝息が所々から聞こえている。きっと今起きているのは私と彼と、あとは先生と運転手くらいだろうか。


「岩泉は?」

「岩ちゃんは寝てる」


及川の隣は、一年生の頃からずっと岩泉だった。

春高宮城予選、二日目の帰り。烏野高校に敗北した後、バスの中で。

私は少し、思うところがあったのかもしれない。


*


正直まだ整理がついていなくて、ようやく状況を飲み込めたのはバスの中で目を閉じてからだった。

でも、それでも、眠りにはつけなくて。少しずつ寝息が聞こえてきても、私自身は眠気には襲われなかった。


後ろの彼と私の間には、座席の厚みしかない。それは壁として隔てているようで、もっと近い何かを生み出していた。

ふと、及川の小さい声が聞こえてきた。


「……Aは、大丈夫?」

「……何が?」

「一番、疲れてるように見えたから」


頭を背凭れに沈めた。疲れた、か。

それを言っているあんたが、一番疲れているんじゃないの?


「みんなに比べたら、私のなんか屁でもないよ」

「……そうじゃあないと思うけどな」

「そうだよ。いいの、それで」


及川は大概お節介だと思う。でも、だからこそ、そんな彼を頼ることも、きっと悪くない。

そう。


「及川こそ、疲れて眠りたいなら寝てていいけど」

「……いや、いいよ。覚めちゃったから。それに」

「それに?」

「Aが声かけてくれるなんて、思ってなかったからさ」


なんだ、それ。

そうは思いつつ、ちょっと嬉しいような気がして、なんだか不思議だ。

穏やかな気持ちになれるのは、きっとすべてを受け入れられたから。


*

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作品ジャンル:アニメ
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - ★マチャキ★さん» 好きだったらだいたい書いてますよー。 (2016年7月20日 19時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
★マチャキ★ - 照ちゃんあった!! (2016年7月19日 20時) (レス) id: a549331ee4 (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» そしてお察しの通り、及川さん大好きです。色々書きたくなるので、最初と最後に入れてるだけなんですけどね。前作も前々作も読んでくださってありがとうございます!更新頑張ります!! (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» コメントありがとうございます!とんでもない、長文コメント最高に嬉しいです…!!私も実は「この続き書きたいなぁ」なんて毎回思ってまして、うーん……したい、ですねぇ……(笑) (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
彗華@京都へ行きたい (元:凰華)(プロフ) - 前作、前々作を見て思ったのですが【及川さんで始まり及川さんで終わる】というループみたいなものが出来ているように感じました。作者様は及川さんが好きなのでしょうか?更新頑張ってください。応援しています!(長くなってしまいすみません) (2016年4月17日 22時) (レス) id: 4e64820097 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年4月14日 18時

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