【ハイキュー!!】いつの日の道はこれから【短編集】

【川西太一】春症候群・１ ページ4

*


「Aさんって、春好きですか？」

「ん……？」


唐突な質問につい驚いて思わず訊き返すと、「いえ」川西君は何でもなさげに言った。

春。私は三年生になって、そろそろマネージャーの後任のことも考えなきゃいけないな――なんてことを、ちょっぴり感じていた頃だった。一つ下の後輩である川西君と、どうしてだか部活前に、二人で中庭にいる。


「俺は春嫌いなんですよね」

「何で？」

「四月生まれですけど、でもやっぱり春が嫌いなんです」

「ふうん……」


どうして彼が急にこんな話をしはじめたかはわからない。でも、ほら少し思ったことを呟いてみたくなる時もあるだろう。

私は十一月生まれだけど、冬が好きか、と言われるとそうでもない。雪が降るのは結構好きだけど。


「嫌いな理由でもあるの？」


気になって、まだこの話をしていたくて、私は尋ねた。川西君はだいたい無表情だけど、でも決して感情がないのではない、と私は知っている。


「理由……ですか」

「だって、理由もなく嫌いなんてあんまりいないでしょ？」

「そうですね……」


川西君は真剣に考え込む。私も変わった後輩を持ったものだなあ、となんとなく思った。もっとも、同級生だって随分変わり者揃いだけど。アイツとかアイツとか。

ふと彼が顔を上げたので、私は彼と目を合わせた。


「なんか、むずむずするんですよ」

「むずむず？」

「落ち着かない、って言うか」


ああ、ちょっと納得した。


「春って結構、環境の変化とかあるしね。落ち着かないのはわかるよ」

「でも、多分それだけじゃないです。こう……」


説明をしようとした川西君の声が、途中で途切れた。怪訝に思っていると、彼はひとつ、くしゃみをする。


「……風邪ひいたの？」

「っ……ですかね」

「ダメだよ、体調管理はちゃんとしなきゃ。もしもの時に困るじゃない」

「Aさんってお母さんみたいですよね」

「褒めてくれてありがとう」


しれっと返すと「Aさんのそういうところ、嫌いじゃないです」なんて台詞が聞こえてくる。全く、素直じゃない後輩を持ったものだ。素直な川西君も、それはそれでしっくりこないかもしれないけど。

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