【東峰旭】昇る空へ・1 ページ18
*
話と時間は少し戻って、私達が中学三年だった夏から始まる。
大会が終わったら自動的に引退して、あとは受験勉強に勤しむことになる。つまり、ラストチャンス。どこまで期間を延長できるかどうか見ものだった。
最後は白鳥沢と北川第一の決勝だろう、と大体の人が思い込んでいた中、我が西光台中は随分健闘したことになるのだろう。
ベスト8、最後も粘りに粘った。いい試合だったと思う。その様子を観客席から観た後、そろそろバスに乗る時間だということを聞いて急いだ。
つまりこれは、私の話じゃない。
「東峰!」
ちょうどジャージを羽織るところだった東峰は、私の声を聞いて「おう!」とやや驚いたように言った。
彼の周りには数人が荷物を整理しているだけだったから、遠慮なく近くに行かせてもらう。
「見てたよ、ちゃんと。最後惜しかったね」
「ああ……うん、なんかAにそう言われると凹まないのは何でだろう」
「そりゃ実感のこもった上辺だけじゃない言葉だからよ」
「自分で言うかなあそれ……」
少し呆れたように言っているが気にしないでおく。私だって、負けた試合の後におんなじことを言われたら、多少はムカつくかもしれない。
それでも試合が終わった東峰にそんな言葉を渡すのは、他に言葉が見つからないから、でもある。
「先輩、俺ら先に行ってます」
「うん、後で行くからな」
私に向かって軽く頭を下げ、バレー部の後輩三人は小走りで行ってしまった。邪魔しちゃ悪いとか失礼なこと考えてないといいけど。
背中を見送った後、ふと顔を上げれば東峰と目が合った。「なに?」訊くと、東峰は頭を掻きながら実に自信のない声で言う。
「いやぁ……まさか本当にAが来てくれるとは思わなかったからな」
「つまり来て欲しくなかった、と」
「そういうんじゃないって! ありがとな、来てくれて」
「……ん」
何故柔道部の私が東峰のバレーの大会に来ているかと言えば、クラスメイトである彼とはある種変わった関係であるからだ。説明するのは難しい。なんとなく、試合で勇姿でも見ておこうかと思うような関係。
泣いたり笑ったりしながら通り過ぎていく大会参加者を流れるように見ながら、ぽつりと「今ここにいる誰かと、きっと三年後に戦うことになるかもしれないよな……」なんてシリアスムードに突入しようとする東峰の腕は目一杯捻り上げておいた。
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - ★マチャキ★さん» 好きだったらだいたい書いてますよー。 (2016年7月20日 19時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
★マチャキ★ - 照ちゃんあった!! (2016年7月19日 20時) (レス) id: a549331ee4 (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» そしてお察しの通り、及川さん大好きです。色々書きたくなるので、最初と最後に入れてるだけなんですけどね。前作も前々作も読んでくださってありがとうございます!更新頑張ります!! (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 彗華@京都へ行きたい (元:凰華)さん» コメントありがとうございます!とんでもない、長文コメント最高に嬉しいです…!!私も実は「この続き書きたいなぁ」なんて毎回思ってまして、うーん……したい、ですねぇ……(笑) (2016年4月18日 18時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
彗華@京都へ行きたい (元:凰華)(プロフ) - 前作、前々作を見て思ったのですが【及川さんで始まり及川さんで終わる】というループみたいなものが出来ているように感じました。作者様は及川さんが好きなのでしょうか?更新頑張ってください。応援しています!(長くなってしまいすみません) (2016年4月17日 22時) (レス) id: 4e64820097 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年4月14日 18時