選ばれし者とその妹２ (ページ9)

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Story 59 ページ9

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　その夜、Aは三階の廊下を足速に歩いていた。はじめは寮に戻って課題に取り組もうと思っていたが、ある音が彼女の足をこの場所へ導いたのだ。壁の中を移動する音はどこか蛇の声を思わせた。

　歩みを早めた時、足元で水が跳ねた。何故かところどころに大きな水溜まりができている。誰かのイタズラだろうか。管理人のフィルチさんが気の毒だ、と顔を顰めたAはふと水に映っているものに目を奪われた。小さい動物くらいの影が自分の頭上に浮かんでいる。
　
　顔を上げた瞬間、その動物と目が合った。束の間、息が止まり、心臓が高鳴る。ミセス・ノリスだ。
　近くには赤黒い文字でこう書かれていた。

　秘密の部屋は開かれたり
　継承者の敵よ、気をつけよ

　
　猫は恐怖に目を見開き、硬直している。もはや生き物ではなく、ひとつの剥製と化していた。数人の駆ける音が近づいてくる。動揺したように何かを言っている。大勢の足音も聞こえてくる。

「『継承者の敵よ、気をつけよ！』」

　高らかに響いた声に、Aは我に返った。そしてようやくハリー、ロン、ハーマイオニーが側にいること、全寮生たちが自分たちを囲んでいることに気がついた。

「次はお前たちの番だ。穢れた血め」

　ドラコの言葉に生徒達がざわめいた時、人垣を押しのけてフィルチが現れた。彼はハリーからミセス・ノリスへと視線を移し、絶句する。

「ポッター、お前……私の猫を殺したな？」

「ち、違う、僕じゃない」

　ハリーの言葉に耳を貸さず、彼は怒りのままに掴みかかった。

「殺してやる……！」

　その場の誰もが制止しようともせずに立ち尽くしていた。ほとんどの生徒がショックのあまり動くことが出来なかったのである。

「先に見つけたのは私です」

　Aが証言し、フィルチや生徒たちの目が一斉に彼女に向けられる。

「ですが私もミセス・ノリスに何もしていません。この子を傷つけるくらいなら鞭で打たれたほうがマシです」

　Aは手を伸ばして猫に触れ、違和感を覚える。逆立った毛までもが石像のように硬くなっている。ただ死んでいるにしてはおかしい。

　