選ばれし者とその妹２ (ページ26)

今日:188 hit、昨日:82 hit、合計:146,185 hit

Story 76 ページ26

＊

　新学期最初の魔法生物飼育学は＂禁じられた森＂で行われた。

　Aがこの森に来るのは一年生の頃にクィレルを尾行した時以来だった。人を拒絶するような闇に包まれた夜の姿とは打って変わり、太陽の下では木々も生徒を歓迎しているように思えた。心地の良い風が吹き、葉の間から差し込んだ穏やかな午後の日差しが地面にまだら模様を作っている。

　さて、教科書を持ってきたはいいがひとつだけ問題がある。開き方が分からない。

「どうやって開けばいいんです？」

　ドラコが尋ねた。教科書はあの＂怪物的な怪物の本＂で、生徒たちは皆、困り果てていた。

「だ、だーれも教科書をまだ開けてないのか？ただ撫ぜりゃーよかったんだ」

　当たり前のことなのに、とでも言いたげにハグリッドはハーマイオニーの教科書を取り、スペロテープを剥がした。本は噛みつこうとしたが、背表紙を人撫でされるとたちまち大人しくなった。

「ほらな？」

　生徒の何人かは眉を顰めていた。こんな教え方では反感を買うのも無理はないだろう。
　魔法生物を呼びにハグリッドが一旦その場を離れると、ドラコはここぞとばかりに新しい教師を罵った。

「あのウドの大木が教えるなんて、この学校も落ちたもんだな。父上が聞いたらなんとおっしゃるか」

「黙れよマルフォイ」

　ハリーが挑むように前に出る。ドラコも挑発的な笑みを浮かべて対峙し――突然、恐怖に満ちた表情でハリーの背後を指差した。

「吸魂鬼だッ！」

　弾かれたように全員がそちらを見た。だが不気味な影は見当たらない。
　馬鹿にしたような笑い声に皆は再度ドラコたちのほうを向いた。ドラコと取り巻きたちは揃ってフードを被り、両手を前に差し出している。吸魂鬼を再現しているつもりなのだろう。

　そんな一悶着があった後、ようやくハグリッドが戻ってきた。一頭の魔法生物――ヒッポグリフを連れて。

「さあみんな、バックビークに挨拶しよう」

　胴体や後ろ足、尻尾は馬のものだが、その三点を除けば生き物は巨大な鳥のように見えた。灰色の羽毛に覆われた体に鋭い鉤爪の生えた前脚、鋼色の嘴とぎらついたオレンジ色の目は猛禽類を彷彿とさせる。迫力のある姿だが、一方で美しくもあった。

「みんなに言っておくが、こいつらは誇り高い。絶対に侮辱してはなんねぇ。そんなことすりゃ命取りだ」

　ドラコ、クラッブ、ゴイルは何やら小声でやりとりをしている。せっかくの忠告を全く聞いていないようだった。