Story 44 ページ45
《嘘だ……嘘をついているぞ……》
「本当のことを言え！何が見えるんだ！？」
《わしが直に話す》
「ご主人様、あなたはまだ弱ってらっしゃいます」
「その位の力ならある」
この不気味な声は一体どこから聞こえてくるのか。訝しむAとハリーの前でクィレルはゆっくりとターバンを解く。やがて、次に見えたものにAは悲鳴をあげそうになった。
クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があった。蝋のように白い顔に血走った目。ヴォルデモートの顔が鏡ごしにハリーを見た。
《ハリー・ポッター……また会ったな》
ヴォルデモートがハリーに語りかける間、Aは信じられない気持ちでいた。こんなに近くにいたことに気づくことができなかった。いつから取り憑いていた？ 初めて会ったあの日から既に……？
《死の苦しみを味わうことはない。わしと手を組んで生きればよいのだ》
「嫌だ！」
《愉快だなぁ……親に良く似ておる。どうだ、ハリー、A。父と母にもう一度会いたくはないか？ わしと組めば呼び戻せる》
Aは突然自分の名前が呼ばれたことに反応して顔を上げる。
……呼び戻せる、ですって？ その手で殺しておいて？ 何を言ってるの？
《その代わりにある物をよこせ》
ハリーがポケットから血のように赤い石を取り出す。駄目、嘘に決まってるわ。でも、邪魔をすれば先生はハリーを……。
《そう、それだよ、ハリー。この世に善と悪などないのだ。力を求める強き者と求めぬ弱き者がいるだけだ。わしとおまえたちなら全て思いのままにできる。……さあ、その石を寄こせ！》
ハリーは我に返ったように言い放つ。
「嘘つき！ やるもんか！」
《殺せ！》
駆け出したハリーをクィレルが捕らえ、床に引き倒して手を首にかける。だが、Aが杖を出す前に彼は転がるようにハリーから離れた。苦痛に呻くクィレルの手や顔は酷く焼けただれている。
「な、なんだ……この魔法は……」
《馬鹿者！ はやく殺して石を奪え！》
死の呪いをかけようとしたクィレルの腕にハリーが強くしがみついた。クィレルが悲鳴をあげる。その身体が、ハリーによって焼かれていく。
「駄目……」
クィレルから煙のような影が逃げるように抜け出た直後、Aは駆け出してハリーを引き離し、膝をついて倒れそうになるクィレルの身体を支えた。
殺せと命じられた時、ほんの一瞬、クィレルがハリーを殺すことを躊躇するのをAは見ていた。
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作者名：闍弥嵩 李 | 作成日時：2020年1月2日 17時
