選ばれし者とその妹 (ページ32)

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Story 31 ページ32

「A、その頬の怪我本当に大丈夫？」

　心配そうなハリーにAは笑って『大丈夫』と答えた。

「なんで怪我したんだっけ？」ロンが訊く。

「呪文の練習してたら失敗したの。派手にバーンッて」

　半分は本当だった。ただし、一人で練習していたわけではなかったが。
　実はロンの言っていた通り、Aはこっそりクィレルに頼んで実践的に防衛術を教わっていた。頬の傷は吹き飛ばされた時のもので(もちろん手加減はしてくれていたが)、服で隠れている部分にもアザがあった。
　スリザリン生にいじめられないためというのもあったが、この世界は本当に何も知らないことばかりなので他の生徒以上に勉強しておいたほうがいいと考えたうえでのことだった。

『す、すす、すみません！あ、あの、ほ、本当に大丈夫、ですか？』

『大丈夫です。痛みにも慣れたほうがいいと思いますから』

　ハリーとロンは羨ましがるかもしれない、とAは思っていた。普段のクィレルの授業は教科書に沿った理論ばかりで肩すかしだと二人はがっかりしていたのだ。
　最初は無理を頼んで申し訳ないと思ったAだったが、クィレルが意外にも少し楽しそうに見えたので安心して続けることができていた。

「僕、何かを爆発させるのはシェーマスだけだと思ってた……」

「失礼だぞロングボトム！」シェーマスがムッとする。

「ネビル、どうしたのそれ？」

　会話に参加してきたネビルを振り返ったAは不自然に両足をぴったりつけてカカシのようにぴょんぴょん跳ねているのを見て尋ねた。

「マ、マルフォイが……」

「ネビル、君も戦わなきゃ」ロンが言う。

「いらないちょっかいかける時間を勉強に当てればいいのにね」

　ネビルの足縛りの呪いを解いてあげてからAが言うと「同感よ」とハーマイオニーが顔をしかめた。
　Aは離れたところに座っているマルフォイを見つめながら指を二度、三度と鳴らした。

「何してるの？」ネビルがキョトンとする。

「これやったらひとりでに縄が出てきてマルフォイを縛ってくれないかなって」

「なにそれ！でも本当にそうなりゃいいのに……」一度笑ってからロンがため息をつく。

　実はこれもクィレルから教わったことだが、もちろんAは秘密にしていた。
　いずれ君も呪文や杖すら必要とせずに魔法を使えるようになるかもしれない。そう言った後に指を鳴らし、炎を出現させたのを見たAは驚くと同時に心の底から彼を尊敬したのだった。