Story 29 ページ30
誰もいない場所まで来てようやくAは足を止めた。あんなに怒ったのは何年ぶりだろう、とAは考えた。ハリーが侮辱された時、頭が真っ白になって気がつけば攻撃していた。寮が減点されるなんてことはこれっぽっちも頭に浮かばなかった。
スネイプ先生に減点されるかもね。でも、いいわ。なんかもう、どうでもいい。
それにしても自分は本当に魔法が使えたんだと今更ながら思った時、後ろから走ってくる足音が聞こえて誰かがAの肩を両端からポンと叩いた。
「やあ、A！」
「さっきはすごかったぜ」
左右を見たAは目を丸くした。鏡写しのように瓜二つな男子生徒に挟まれている。
「えっと……？」
「俺はフレッド、こっちはジョージ」
「なんて冗談、俺がフレッドさ」
あ、とAは思い出した。この二人には一度駅で会ったことがある。
「ロンのお兄さん？」
「そう！」双子は同時に返事した。
「君とも話してみたかったんだけど、いかんせん違う寮だからなかなか会う機会がなくて」
「今回は良い機会だった。あいつが女の子にノックアウトされるところも見れて一石二鳥」
Aは二人の顔を交互に見る。全然見分けがつかない。
「かっこよかったな！ スカッとしたよ」
「あ、ありがとう！」
Aは一気に心が軽くなった気がした。
「まあスリザリン贔屓のスネイプのことは気にすんな。俺たちなんてしょっちゅう罰則くらってるし」
「クソ爆弾がお気に召さなかったようで」
「いやぁ、爆発する前に気づかれたのは惜しかった」
話を聞いているとこの双子はかなりの悪戯好きのようで、Aは思わず笑ってしまった。
「そういえばさっきクィレル教授、スネイプが来るまでずっと隠れてたよな」
「あー、隠れてたつもりだけどターバンの端が風になびいて見え見え」
「スネイプだってお気に入りの生徒は助けるぜ？ マルフォイとかさ」
「いや、あいつは助けられすぎ」
どうして助けてくれなかったのか、とは思わなかった。途中で止められてたらあそこまで怒ることはなく、魔法を使える自覚もないままだったから。
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作者名：闍弥嵩 李 | 作成日時：2020年1月2日 17時
