Story 1 〜賢者の石〜 ページ2
「起きろ、ハリー！ 動物園に行くぞー！」
ダドリーが階段の上で喧しく飛び跳ねるのを呆れた目で一瞥し、Aはコーヒーカップをバーノンおじさんの前に置いた。兄、ハリーの部屋は階段下にある物置だ。そろそろ起きてくるだろう。あれだけ煩くされれば嫌でも目が覚める。
「早く朝ご飯の支度をおし。焦がしたら承知しないよ」
起きたばかりのハリーにペチュニアおばさんが言った。部屋の隅のプレゼント箱の山を見て、そういえば今日はダドリーの誕生日だったということを思い出す。
「全部でいくつなの！？」
「三十六！ ちゃんと数えたよ」
「三十六！？ 去年なんか、三十七個もらったのに！」
「で、でも、今年は去年より大きいのがあるし……」
「大きさなんか関係ないよっ！」
おじさんとダドリーのやり取りに思わず大きくため息をついてからしまったとAは口を押さえたが、幸いにも聞かれてはいなかった。
朝食を終えて出かける準備を進めている時、ハリーがこっそりとAに話しかける。
「そういえば変わった夢を見たんだ」
「夢？」
「オートバイが空を飛んでて」
「なにそれ」
面白い夢だと笑ってからAはチラリとダーズリー夫妻のほうを見る。夢の話をするだけなのに何故小声で話すのかというと、バーノンおじさんは非現実なものを嫌っており、たとえ夢であっても空飛ぶオートバイのような現実にはありえない物の話をするとたちまち不機嫌になるからであった。
「でも楽しそうで羨ましいわ。私が時々見るのとは大違い」
「A、何か悪い夢を見ていたの？ 大丈夫？」
「うん、平気よ。ただ、知らない人がよく出てくるの。黒い服を着ていて、どうしても顔は見えないのだけど、なんだか恐ろしく感じて」
そして毎回最後に鮮やかな緑の閃光が部屋を満たして終わる。不可解で気味の悪い、暗い夢。ただ何故か、その人の標的は自分ではないということがAには分かっていた。
「さあさあ、行きましょう。動物園よ、とっても楽しいわよ」
「いいか、言っておくぞ、ハリー。ちょっとでも変な真似をしてみろ、ちょっとでも。一週間食事抜きの罰だからな」
車に乗り込む際にバーノンおじさんがハリーにそう釘を刺し、Aにはただ「乗れ」とだけ言った。
変な真似……ハリーはある点がAと違っていた。それというのも彼の周りではよく不思議なことが起きるからだ。
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作者名：闍弥嵩 李 | 作成日時：2020年1月2日 17時
