生命の後の意 ページ21
籌三郎は強く手を握り締めた。その手に、晶子はそっと手を添える。
「籌三郎、必要以上にこの娘に着け込むンじゃないよ。あんたは精神科医なんだ。精神科医はあくまで本人の話を聞いて、納得のいく答えを見つけるのを手助けするのが仕事だよ。あんた自身の手で救う訳じゃない。敦は兎角、この娘の身の安全まで保証しようなんて思うのはあんたの仕事じゃないよ」
「……解ってる」
籌三郎は握っていた手を解くと、近くの椅子に腰掛ける。
「それでも、一人の人間として、生命を助けたいって思うのは間違いじゃないだろ?」
「それでもだ。思うだけにしな。妾だって関わった以上、助けたいとは思う。でも、相手が相手なンだ。下手に同情して、後から辛くなるのは医者としての腕が鈍くなることに繋がるンだよ。特に、籌三郎みたいな精神科医は一人一人に同情していられないンだ。皆に平等に、それぞれの答えを見つける迄の手伝い以上の事は危険だよ」
「……」
籌三郎は眉間に皺を寄せて俯いた。
「妾も、目の前で多くの生命が消えていくのを見た。その度に消沈してたら救える生命が救えなくなってしまう…」
晶子は自分の手を見つめ、何時しかの記憶が蘇る。
初めて目の前で救えなかった生命、その事が頭を離れずに失敗した2回目。
震える手をそっと握ってくれた温もり…そして言われた言葉…
「医者ってのはね、時には患者に対して非情にもならなくちゃいけなくなるもンなンだ。どんなに救おうとしても、この指をすり抜けていった生命は直ぐに諦めないといけない。でないと、直ぐそこにある救える生命に気付けない。本当に残酷な仕事なンだよ」
晶子はそっと籌三郎の頭を抱き寄せた。
「あんたは昔からそうだったネ。とても優しくて、どんな事でも簡単に見離せない性格だった。正直、あんたが医者になるって言い出した時は止めようとしたよ。でも、妾にない物があって、あんたにしか救えないものもあるって思った。だから認めた。だから、あんたが迷ったらそれを導くのは妾の仕事。悩み事があるなら、ちゃんと言いな…」
「っ!?気付いて…」
「当たり前だろ?妾はあんたの姉だよ。あんたが悩んでるなんて一目で解ったよ。でも、あんたが言うまで待つ。だから、気持ちの整理がついたら言いに来な」
籌三郎は愛する姉の温もりに、暫く身を預けた。頭の片隅に現れた、黒い欲望に気付かないふりをして…
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∞色(プロフ) - 白さん» あわわわわ!ありがとうございます!外したつもりでいました(汗)気を付けます!御指摘ありがとうございました! (2016年12月2日 0時) (レス) id: d84928d06e (このIDを非表示/違反報告)
白 - 「オリジナルフラグ」が立ったままになってしまっていますよ。尚、二次創作は「オリジナルフラグ」の対象ではないので、外していただければと思います。 (2016年12月2日 0時) (携帯から) (レス) id: d9d0dd6f99 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∞色 | 作成日時:2016年11月27日 23時