第六話 万人彩色 ページ33
ハインに言わせれば、革命軍の一部は救世主や英雄顔をしているように見える。
しかしこの世界では『魔王を倒せば全部解決、世界は平和になりました』だなんて英雄譚は存在しない。なのに彼らの大部分は明確な魔王の存在を確信し、悪を暴かんとする自分達の白さを疑わないでいる。
「個人的に意見するのであれば、政府にも様々な人がいらっしゃるとだけ言っておきましょう。革命軍もそうでしょう？」
「否定はできないな。まぁ少なくとも僕らは人の命に値段なんて付けないよ。」
「付けるような価値などないと。」
「君は…いや、分かってて言ってるな？まったく…良い性格してるもんだ。」
やれやれと眉をひそめて襟を整えるサボは『政府傘下組織に尋ねることじゃなかったな』と溜息をこぼした。
「お節介かもしれませんが、相手は選んだ方が良いですよ。私は構いませんが、他の将校では戦闘に発展しかねません。」
「その返答、情報系の人間かい？」
「お嫌いでしたか。」
「苦手だよ。思考回路が違い過ぎる。」
これまでの振る舞いとは一転、サボは苦々しい表情を浮かべて肩をすくめる。
「となると困ったな。君らのことはよく知らないんだ。前線の中将らと違って、君らは滅多に出てこないからさ。いつもどこにいるんだい。」
「それはノーコメントで。ともかく、異鉄を引き渡して頂ければ、今回の件は穏便に片付きます。お互いそれで手を打ちませんか。」
「難しいことを言うなぁ。流石にその取引をするには信用が足らないんじゃないかい？」
「足らない前提でのご提案ですよ。次回に備えて、選択肢の一つを提示しておこうと思っただけです。」
朧月夜の下、流れ続ける蛾の目の風が闇夜に紛れる何かを感知する。しかしハインは立ったまま、ゆっくりと動き始めた革命軍の船に視線を戻した。すると腰布がなびき、出港を妨げる雨風が吹く。次第にポツポツと小雨が降り、路地や水路には色とりどりの傘が開いた。
「それ、オハラでも採用された交渉術だな？」
「ご存知でしたか。」
「そりゃあ…いや君、オハラのことを知っていてその対応か？」
「情報局員なら歴史の概要くらい、ひとしきり暗記していますよ。」
「そう言う問題じゃない。」
遺恨にでも触れたのか、サボは僅かに片足を出した。ハインは相手の一歩を見逃さず、揃えるようにジリジリと距離を置く。小雨に濡れた石の床を鉄パイプの先端が叩き、カツンと硬い音が鳴った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 267人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (
レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
