第一話 夜明け前の火柱 ページ2
表向き、何の変哲もない日だった。
ゆっくりと押しやられる夜空の隅には痩せた月が白く輝き、黒い大海原は波一つなく凪いでいる。そんな、水平線に朝日の迫る、静寂に包まれたジャヤ沖合で。
巨大な船が轟々と燃えていた。
船は今にも沈みそうなのに、脱出者は一人もおらず、業火は瞬く間に呆気なく船を飲み込み尽くし、パチリパチリと火の粉が踊る。焼けて脆くなったマストは大きな音を立てながら崩れ、水面を叩いて飛沫を上げた。海面を漂う夜霧は炎に焼かれ、ふわりと解けて消えてしまう。
火柱状態の船から少し離れた所には、傷付いた黒船が一隻停まり、沢山の船員が忙しそうに動き回っていた。船の傷付き具合から見て随分と酷い戦闘だったようだが、船員達の表情は悪くなく、むしろ喜びや充実感に似た色すら浮かべている。黒船の船内倉庫には食料や医薬品、武器に本、家具などの鹵獲品がずらりと並ぶ。
ようやく顔を出した太陽は海面を温め、水面を漂っていた夜霧も解け去る。夜の間に冷たく固まっていた大気がゆったりと流れ始め、大きな黒い帆は潮風を受けパタパタと張った。
「…実在するとは驚きだな。」
船首近くに立つ男は、古い木箱を手にそう呟いた。やや汚れた布に包まれた木箱には、見慣れない民族的な模様が刻まれている。男はシルクハットを腕に暫く考え込んでいたが、何かを察してふと顔を上げると、眩しい朝日に目を凝らした。
光の中に小さな影が三つ。
逆光で帆までは確認できないが、民間の船にしてはやけに大型だ。
「海軍か。仕方ない、撤退しよう。」
凪の夜明けに侘しき鴎声。
駆け付けた海軍は消火を試みたが間に合わず、その船は海の底へと沈んでしまう。何処の、誰の船なのか判断できずに困りかけた彼らだが、しかし幸いとでも言うべきか、水平線に消えるもう一方の船が革命軍であるとは判明した。そのため報告書には『革命軍が身元不明の大型貨物船を襲撃した』と記される。
これらの情報を頼りに、海軍本部の〈情報局〉は捜索を開始。周辺の島々からの目撃情報や、海軍支部の出入港リスト、船の大きさを頼りに、沈んだのは政府協賛企業の貨物船だと言うところまで突き止めると、ちゃっちゃと報告書を作り上げた。報告書を受け取った情報局長ハインは『定期巡回は予定通りに』と言う基本的な初動を指示すると、古参達を集めて話し合う。
そうして無事に海軍はジャヤ沖合での事件を見落とさずに拾い上げ、面倒事にしっかりと片足を突っ込んだのだった。
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poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (
レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
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