序幕 空白の ページ1
五月二十一日、午後六時
サンリヤーノ参合会館
第三会議室
当時を知ろうにも、頼りになる記録はない。
書類、手紙、海図、印鑑の一つすら出てこない。当時の手記や新聞を掻き集めたが、今や調査開始時より混乱している。当時を生きた将校らに弄ばれていると気付いた時にはもう遅く、振り出しに戻ってみようにもミノスの迷宮。絡まった糸を解き解そうと、そうするほどに絡まった。
それでも彼らは〈ウォールズの撹乱記録簿〉を睨み、諦めることなく考える。
将校の名前も部隊の規模も、動員数すらも不明の大戦。唯一はっきりと分かるのは、海軍の勝利に世界が安堵したことだけだ。大事件の細部は溶けて、核心はごっそりと抜け落ちたまま。今の今まで時代は流れた。幸いと言うべきか、損害については気前よく賠償済みである。だからこそ特段言及されず、むしろ…それ込みでの終戦交渉があったのかもしれないと、一部の者達は仮説を唱える。
賠償後の記録は確かなものだ。
ウォールズは正気を取り戻し、正確に世界を記録している。いわく、望まれ続けた王家が復活し、組み伏せられていた国や人々は解放され、青空を見上げる自由がやって来たとのことだ。
自由を連れて、ゆっくりと歩み始めた新時代。まるで補助輪があるかのように、さらりと滑り出していた。
それすらも見越していたのでは？
そう疑わざるを得ない歴史は神話に近く、どうにも扱いに困るものだ。
記者達は真相を探るために海軍本部へと赴いたが、当の海軍から得られた答えは『島の防衛だけ担当していた』との一文のみ。上層部ならどうだ？と押しかけたところで『我々は防衛以外指揮していない』だった。そして書類や計画書も見せられて、確かに防衛だけだと証明されてしまった。
なのに、確かに、神話はそこにある。
神話の時代がそこにある。
なら誰が戦ったのか？
そも、海軍は何に勝ったのか？
その問いに答える者はいない。
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poidf(ポイドフ)(プロフ) - 誤字も見付けたら教えてくださいまし (11月18日 18時) (
レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
poidf(ポイドフ)(プロフ) - どこかにルビ振る為の■が混ざってるかもしれません。混ざってないかもしれない。忘れましてよ。見つけたら教えて。 (2023年3月7日 22時) (レス) id: 24e80c86dc (このIDを非表示/違反報告)
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