上から落ちて、下から落ちて (ページ19)

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遠くからピピピピピ、ピピピピピ、と音がする。
「...うるさい」
Aは自分の頭の上にある時計を叩く。
するとガチャンと音がして電池が転がる音がした。
ふわぁっと大きな欠伸をすると目を開く。
ベッドから降りると時計と電池を拾いもとの位置に戻す。そしてテーブルにおいてあったスマホを開いた。
「あれ？今日って...」
そこに表示されていた日付は前回の記憶から２週間も離れている。そして日付は念願だった歌番組の日を示していた。
「...また、起きちゃったのか」
Aは意味深に呟くと、クローゼットを開き服を探し始めた。

「こんにちはー！今日はよろしくお願いします！」
テレビ局に初めて来たAと響は慣れない景色に圧倒されていた。２人は人が通る度に同じ挨拶を繰り返す。そして挨拶回りも終わり、楽屋へ戻ってきた２人は同じ楽屋の人とも挨拶を交わす。
張りつめた空気の中で自然に二人の話す声も小さくなり、内緒話をしているみたいになった。
「烏山さん、私緊張してきたんですけど」
手汗をかいたのか、ずっとタオルハンカチを握りしめているAが響を見上げる。
「だ、大丈夫だ。い、いつも通りに？やれば？い、いいんじゃ、ないかな？」
そういう響は冷や汗がだらだら出ている。
「めっちゃ片言ですよ！烏山さんの方が緊張してるんじゃないですか...なんか緊張とけた」
そういうとAは微笑み、ぐーと親指を立てた。

衣装に着替え、メイクも終わったAの元へとある男性が来る。
「なでしこさん？ですよね。私はプロデューサーの高橋です。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、本日はうちのなでしこを使っていただきありがとうございます！」
響はすぐさま立ち上がりここぞと言わんばかりにキレッキレの動きで高橋に挨拶をした。互いの名刺交換を尻目に、高橋はAを見てちょっと首をかしげた。見られているAは居心地が悪くなって高橋に思わず聞いた。
「どうかされましたか？」
「あ、いや...何処かで君に会ったことがある気がしてね...何でもない、忘れてくれ」
高橋は頭を振ると、Aへエールを送り二人の目の前から去っていった。Aが不思議そうに見送る中、響は険しい顔で高橋の背中を見送った。