［金神］Snapshot. (ページ3)

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3.招待ページ3

「うわ」

伸びた前髪が風で額を晒し、吹き荒れた砂埃が眼球を撫でる。ごろりと眼球に衝撃があって涙を弛ませながら俯いた椿世は、反射的に瞼を落として足を止めた。

ぴく、と瞼が震えて涙で異物を押し流す。痛みが落ち着いだと思って顔を上げた。吹き抜けた冷たい風が季節を知らせようと駆けるのである。
椿世が目元の涙を軽く拭い前を向く。

そわりと、肌寒さに腕を摩った。
眼前の景色が先ほどとまるで違うことに気が付き、目を閉じながら変な方向に歩いてしまったかと心臓が冷える。

「図書館裏かな……こっち来たことないからわからないんだけど」一歩足を踏み入れると暗がりになっていて場所を覚えにくい、と噂される図書館裏は普段あまりいいイメージを持たれていない場所である。椿世は故意に避けていた。「別世界にでも繋がってそう」

感受性豊かに、広がる世界観に素直に。抱いた印象に嘘をつかないことが作品作りにおいて重要だ。
特に、経験したことしか形にできないタイプの人間にとっては引き出しがイコールそのまま作品数になる。
椿世は好奇心に忠実に、苦手なジャンルの生徒に会わないように気をつけながら進んでいく。

地面が濡れている。

黒い。白っぽい砂が濡れて濃い色になっていた。椿世は思い返す、こんなに黒くなるものだろうか。

首根っこを掴まれて後ろに投げ飛ばされた。衝撃に目を瞑る。背中に走る痛みと動揺で目を瞬かせた椿世の眼前に立った大きな背中、振り返ったその顔に意図せず目を惹かれた。

「お前どこから湧いて出た！危ねぇだろ！」

空気の振動に現実感がない。破裂音は椿世の鼓膜を叩く。見慣れない風貌の人間が視界に入り込んでくるのをみて、その風貌が見慣れないものである理由を考えて、恰好にあるのだと気付いた。
重厚感溢れる服装とは縁遠い。

地面に身を打ち付け、思わず眉を顰めているとそんな暇はないと言わんばかりに別の人間に壁際へ寄せられた。指先が撫でる土の感触は紛うことなき本物だ。

何もわからなくなると何も考えられなくなる。椿世は浅い呼吸を繰り返し、瞬きも忘れて周囲を見ていた。人が幾らかいた。緊張感に馴染みがない。

「急に現れてどうしたんだよ……ここの住人か？変な格好だな、つか、今がやばいのくらいわかるだろ」

坊主の男性が椿世に話しかける。その優しい声色と紫色の半纏みたいなそれを見て、椿世はようやく声を出した。