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第30話 濡れた後には… ページ32

Aは声を上げず、ぽろぽろと涙を零していた。情けない声を出さないことで、大したこともない見栄を張ろうとしていたのかもしれない。

「っ………!すみません……………。」

涙で濡れた目を隠すため、両手で目を覆った。そして、どうにかしてこの洪水を止めようと、必死に手で涙を拭う。

すると、目を覆っていた手を握られ、目から引き剥がされた。
驚いて前を見ると、濡れてぼんやりとした瞳で捉えたのは、天馬の顔だった。

「抑えなくていい。誰にだって、弱い部分はある…………。」

宝石に触れるかのように優しく、天馬は言葉を紡いだ。

その言葉で、Aの奥で必死に固めていたなにかが崩れた。

「……っぅう〜……うわぁぁっ………うええぇぇぇ……ぐず、っぅぇええ……」

気がつくとAは声を上げて泣いており、そんなAを、天馬はずっと、抱きしめていた。

少女から滴り落ちる雫が、少女の頬を濡らし、髪を濡らし、自分を包んでいる相手の服を濡らしていった。



こんなに強く、脆いものを、俺はかつて見たことがあっただろうか。

なかなか素顔を見せてくれない癖に、いざそれを覗き込むと、今まで以上に、こいつに引き込まれていくような気がするのは、何故だろう。

本当はもっと、もっとこいつの事を知りたい、でも、俺の前でくるくると表情を変えていくこいつは、本当に壊れそうで、精巧なガラス細工のようで、優しく触れるだけで、精一杯なんだ………


抱きしめた少女のぬくもりを、天馬はずっと感じていた。



「本ッッ当に申し訳ございませんでしたッッ!!」

Aは正気に戻ると、自分のした行動がとても恥ずかしいものであったことを自覚した。
そして、特に関係もない人間を付き合わせてしまったことも申し訳ないと、心底数分前の自分を呪った。

「んん?いや、気にすんなよ。」

天馬は、残っていたみたらし団子を平らげている。
一方のAは、土下座をせんばかりに頭を下げ、残っている葛餅は、黒蜜を吸い上げたのか茶色っぽくなっていた。

「ああ………私は、なんて非礼を………………。」

その言葉に天馬が反応する。

「おい、大事な奴が悲しんでたら、側にいんのが普通だろ。んん?」

「あっ……はい……。」

大事な奴というのは、陰陽師として?それとも……………………

Aは答えを求めるのをやめた。

そして、黒蜜を吸った葛餅を食べ始める。

葛餅の柔らかな食感と、黒蜜のやさしい甘さが、口いっぱいに広がった。

第31話 入学準備→←第29話 甘味処と葛餅



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設定タグ:双星の陰陽師 , 鸕宮天馬 , 夢小説   
作品ジャンル:恋愛
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あとり - ありがとうございます!大変遅くなりましたが更新させていただきました! (2018年2月13日 0時) (レス) id: ce2f790ea1 (このIDを非表示/違反報告)
(* ´ ▽ ` *) - 続きはまだですか?とても面白いので、更新頑張ってください! (2018年1月28日 15時) (レス) id: 18290c3fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ちっち - あとりさんこの小説大好きなので、頑張って更新してください! (2017年12月29日 9時) (レス) id: d069e4a0a4 (このIDを非表示/違反報告)
あとり - 夜実さん、すみませんでした!ご指摘ありがとうございます!気をつけます! (2017年3月30日 0時) (レス) id: 493c050031 (このIDを非表示/違反報告)
夜実 - 47なのに46になってますよ〜(このコメント消していいです) (2017年3月29日 23時) (レス) id: 180bd39056 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あとり | 作成日時:2017年2月17日 7時

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