第29話 甘味処と葛餅 ページ31
「残念なことに…………まるで異常が見当たらないっス。」
こてん、この病室で二度目のリアクションだった。
「ということは………病室を出て大丈夫ですか?」
「問題なしっス。」
「ありがとうございます!水度坂様。」
「いえいえ〜、それにしても、あの時の女の子がここまで成長するとは、思いもよらなかったっス。聞いたっスよ。初めての禍野でも一人でケガレを祓ったんスよね。」
「いえそんな…………不法侵入の身でありながら、私を受け入れてくださった方々のお陰でございます。………………まだ皆様からは認めていただけませんが。修行を積んで、いつかは………。」
「大丈夫スよ。いつか皆から認められるっス。実力がつけば。」
「はい………ありがとうございます。」
「おい、もういいだろ。」
気がつくと病室のドアが開き、天馬がじっとこちらを睨んでいた。
待つのが嫌いな天馬は、心底機嫌が悪そうだ。機嫌が悪い理由は、それだけでもなさそうだが………
「よし、帰るぞA。」
そう言い天馬がAの手を握った。引っ張られるようにして病室を出ると、勘久郎が
「お疲れっス〜。」
と手を振っていた。
「よし、じゃあ………どこ行きたい!?キツネ子!」
メインストリートに来た時、天馬が言った。最初からこれが目的で迎えに来たのだろうか。
Aは自分の置かれている状況が理解できなかったが、ちょうど3時頃だったこともあり、近くの甘味処に行きたい思った。
「天馬様が良いなら…………甘味処は如何でしょうか?」
「おう!みたらし団子食うか!」
そう言い、二人は店員に案内されて奥の個室に入った。
個室には丸型の窓があり、海を一望できた。
「きれい……………………。」
Aが目を輝かせて言うと、天馬も嬉しそうに頬杖をついて窓の外を眺める。
二人が注文したみたらし団子と葛餅がつくと、二人とも嬉しそうに食べ始める。
「……もごっ………キツネ子。お前なんで葛餅が好きなんだ?」
天馬が口に団子を含みながら言った。
Aはコトン、と楊枝を置き、切なげな声で話始めた。
「…………育ての親がよく作ってくれてたんです。それで、いつのまにか好きになってて…………。
でも、本当に懐かしいです。まだ亡くなって一年も経ってないのに……………。」
そういうと、Aの瞳から雫が落ち始めた。
この島に来て、初めて涙をこぼした。
柔らかな色の葛餅が、涙で星のような輝きを放つ。
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あとり - ありがとうございます!大変遅くなりましたが更新させていただきました! (2018年2月13日 0時) (レス) id: ce2f790ea1 (このIDを非表示/違反報告)
(* ´ ▽ ` *) - 続きはまだですか?とても面白いので、更新頑張ってください! (2018年1月28日 15時) (レス) id: 18290c3fc7 (このIDを非表示/違反報告)
ちっち - あとりさんこの小説大好きなので、頑張って更新してください! (2017年12月29日 9時) (レス) id: d069e4a0a4 (このIDを非表示/違反報告)
あとり - 夜実さん、すみませんでした!ご指摘ありがとうございます!気をつけます! (2017年3月30日 0時) (レス) id: 493c050031 (このIDを非表示/違反報告)
夜実 - 47なのに46になってますよ〜(このコメント消していいです) (2017年3月29日 23時) (レス) id: 180bd39056 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あとり | 作成日時:2017年2月17日 7時