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朝が来ない世界ならば― (60) ページ11

「近いなら、詳しくどの辺りか教えて

  欲しいのだが……」

 「川…交差点、横断歩道……くらいしか

  思い出せない」

 多雨が淡々とした口調で語った。

 「あの日…確か、俺と喜雨は

  家に帰る途中で、俺が川を見て…

  『夕日が映って綺麗だ』って走ってって…

  横断歩道を走り抜けた―――筈…だった?」

 「た、多雨…?」

 明らかに話し出しと様子が違う。

 『走り抜けた』のところから疑問に

 なってる。

 更に、顔が険しくなっていく。

 「―――っ!」

 「おいっ!多雨っ!気をしっかり持て!」

 多雨はその瞬間、目を大きく見開き、

 その場に倒れ込んだが、木綿が瞬時に

 多雨の下に腕を伸ばし、受け止めたお陰で

 無事だった。

 「あの…多雨は……」

 「大丈夫、気を失ってるだけだよ」

 私はホッと息を吐く。

 「ところで、さっきの話に気絶する様な

  トラウマ級の出来事は無いように

  見えるけど……」

 「いえ、多雨にとっては十分。

  多雨はあそこまで記憶を辿って

  思い出してしまったのかも…」

 「何を―――」

 「多雨は…そう、『夕日が映って綺麗だ』って

  川を指して言いました。

  私を元気付ける為です」

 「元気…付ける……?」

 まだ、トラウマ級では無いから、木綿は

 私の言葉をオウムの様に繰り返す。

 そんな木綿に笑い掛ける事もなく、

 淡々と話していく。

 多雨とは違い、しっかりと目に焼き付いた

 あの光景を見詰めながら。

 「はい、そうです。

  あの時、私たちは母に花束を贈ろうと

  2人で花屋へ行きました。

  でも…途中で折れてしまって。

  それで落ち込んでいたんです」

 「しかし、だからといって―――」

 「話はここからです。

  多雨は私にその景色を見せようと

  必死に手を引っ張って横断歩道を

  走ったんです。

  車が来ていることにも気付かずに」

 そして、私たちは亡くなる筈だった。

 「なるほどね…多雨は悪気が無いとはいえ

  喜雨を巻き込んでしまったから、

  根に持っているのか」

 「そかそか、大変だったねぇ……」

 理解してくれた木綿の後ろで時雨も

 泣いている様な素振りで慰めてくれる。

 「何だか、悪かったな…

  しかし、それではなぜ『面白そう』なのか

  分からないな」



 ―――"神"が何者なのか…

 近いいつか、きっと分かると私は信じてる。

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作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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作者名:雨音 時雨 | 作成日時:2021年5月17日 23時

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