禊火 ページ3
よく雪が降った日であった。
その日、白星は冷えた森に生えた薬草を摘みに森の麓まで足を運んでいた。
高下駄で歩く度雪を踏む特有の音が静かな辺りに響き渡る。
裸足なため指先は赤く腫れ、冷え切っていた。
白い息を吐きながら籠へと薬草を入れる。
これで粥を作ったり茶にしたり、薬と調合をしたりするのだ。
ふと風から血の匂いが交じり鼻をくすぐる。
白星は反対側をじっと見据え無意識に構えていた。
これは動物ではない、人間だと確信を持てる。
さらにはただの人ではなさそうで、はっきりとした殺意を感じられるのだ。
木と木の間から現れたのは癖のある黒髪に死んだ魚の様な光を浴びない瞳、全身黒づくめで目立たないがたしかに返り血を浴びている青年であった。
白星を視認するも青年は力尽きた様にその場で倒れ込んだ。
白星は急いで青年に駆け寄り抱き上げた。
頬に一筋涙の痕がある。
疲れ切ったのは体だけではなく心もだと白星は悟った。
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白星は冷え切った青年を囲炉裏の側で寝かせ、先程摘んだばかりの薬草を粥に混ぜていた。
外はまだ雪が降り続けている。
そっと手に触れると青年の身体は温かさを取り戻し、静かに瞼を開けた。
「起きた様だな、青年よ」
「…」
眠気眼でこちらを見ていた青年は突然飛ぶ様に起き上がり腰を忙しなく触り始めた。
「探し物はこれかな」
白星は大剣を青年へと手渡す。
安心した様に肩をなで下ろすと再度寝転んだ。
「安心なされよ。ここにはおぬしを狙う追っ手も辿り着けまい」
「…何故それを知っている」
「それぐらい何千年も生きている故、分かるものだ」
何千年、という単語に疑心を抱いた青年の視線はふと白星への鬼のツノへと向けられた。
「成る程、あんたは鬼ってわけだ」
「ほほう。おぬし、驚かないか」
「別に、驚くことじゃない。聞いたことがある、はるか昔、星の鬼と呼ばれた一族と人間との聖戦があったってことをな」
「さらには博識か。おぬしの軍も良い人材を失ったものよ」
「俺は所詮軍の消耗品だ。苦労事は他の幹部が行う」
「目の前の鬼に刃を向けようとは思わぬか」
「…あんたは俺に殺意があるのか？違うはずだ、殺意もない奴をやるのは意に反する」
感心した、と言わんばかりに白星は目を細める。丁度粥が出来上がった頃合いだったのか、蓋がくつくつと鳴り始めた。
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
