# 44 ページ46
はっきり言って、ここ1週間の兵団内の空気は最悪だ。
他の兵との会話は極端に減ったし、自室に籠りきりの兵も多く、兵舎内を歩いている兵もほぼみなくなった。
多分、今廊下を歩いているのは、私だけ。
そんなことをぼんやり考えながら、ひとつの扉の前に立ち、扉をノックする。
中から"入れ"という声が聞こえ、ゆっくりノブを回して開けた。
「…こんにちは」
ふかふかで上質そうな椅子に腰掛けた金髪に声をかける。
「あぁ、いきなり呼び出して済まないね。」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう。」
ふ、と、緩まった目元に薄らと隈が出来ていて、あぁ、この人も人間なのかと思った。
「慣れないな、団長室は。違和感を感じる」
「そうですか？私は感じませんよ。まるで、ずっと前からそこに居たみたい」
「はは、ありがとう」
少し前までそこに座っていたはずの、キース団長を思い出す。
あまり話したことは無かったけど、ぴしっとしていて、彼の前では何となく背筋が伸びていたな。
逆に、エルヴィン団長の前だと、リラックス出来る気がする。でも、嘘とか、誤魔化しとか。一切効かなさそうな瞳。2人は、真逆なようで似ていた。
「それで、君を呼んだ理由だ。」
緩んでいた目元も引き締まり、ごくりと唾を飲み込む。
「壁外調査に関してだが…。陣形を変更する予定だ。」
団長に差し出された紙を見ると、"長距離索敵陣形"と書かれている。
どうやら、彼の碧眼は、私にそれを読めと訴えているようだった。
伝達、待機…。
「…つまりは、巨人を発見次第煙弾で伝達、それをみた団長が進路を決め、煙弾で伝達…。奇行種のみ交戦する、と…」
「ああ、その通りだ」
なんとも面白い観点だ。
"巨人にいかに遭遇しないか"…。たしかに、被害を抑えるために必要な発想だ。
…でも、この陣形の説明のためだけに私を呼び出すなど、ありえない。
ではなぜ…？と目で訴えかけると、団長はただ、私の瞳を見据えていた。
「それで、君にひとつ、願いがある…。」
ごくり、と、唾を飲み込む。
緊張感が張り詰めた。
「君に、分隊長補佐をお願いしたい。」
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作者名：来世は春菊 | 作成日時：2023年11月25日 23時
