いつか、絶対に。【進撃の巨人】 (ページ38)

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馬を走らせ、一度来た道をもう一度辿る。

　誰も、一言も発しなかった。

　それもそのはず…。

　兵たちの死体が、数え切れないほど転がっている。

　できるだけ多くの死体を回収しようとするが、荷馬車に乗り切らず、いくつかは断念することになった。

　道中で見た死体は、見るに堪えないものだった。

　腕だけとか、上半身だけ。下半身だけのものもあったし、首だけになったものもあった。

　
　やはり、血と腐敗臭で塗れた地下街を思い出す。

　なんだ、外の世界も、地下と変わらないじゃん。

　父が言っていた外の世界は、こんなものだったんだ…

　
　すると、後ろから足音が聞こえる。

　───巨人だ。

　後ろを振り返ると、ちらほらと巨人の姿が見えた。

　団長もそれに気づいたらしく、馬の速度を上げる。

　
　なるべく、戦いたくないな…

　手綱を力いっぱいに引き、駆け抜けた。

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　開門を知らせる鐘が鳴り響き、隊列の1番後ろにいた私が入ってすぐに門が閉められた。

　全員、口を固く閉ざして俯いている。

　そのままシガンシナ区を抜けようとした時、1人の女性が隊列の合間を縫うようにして団長の前に立つ。

　「モーゼス、モーゼス…？」

　女性の瞳は不安でいっぱいだった。

　「息子が…モーゼスが、見当たらないのですが…」

　モーゼス。

　その響きに、腕を抱きしめ泣き叫ぶ兵の姿が浮かぶ。

　思わず唇を噛み締め、馬の手綱を引く力を強めた。

　「…モーゼスの母親だ。持ってこい」

　
　俯き、団長の横を通り過ぎる。

　"持ってこい"の一言に何かを悟った女性が小さく声を洩らしたのを、私は聞き逃さなかった。

　やがて、女性の腕に1つの細長い包が渡される。

　絶望したような顔で肩を落とした女性は、慌てて包みを開く。

　中から現れたのは、片腕だ。

　女性は嗚咽を漏らしながらその場に泣き崩れた。

　
　「…それしか…取り返せませんでした…。」

　
　団長の声からは、何も窺えなかった。

　「…っでも、息子は…。役に立ったんですよね…」

　腕を抱きしめ嗚咽を漏らす女性は、絞り出したような声で問いかける。

　団長ははっとして目を見開く。

　「何か…直接の手立てはなくても…。っ、息子の死は、人類の反撃の糧になったんですよね…？！」

　女性の声色には、期待が入り交じっていた。

　
　辺りに風が吹く。
　静寂が訪れた。

　「っもちろん、…」

　
　団長の声だけが、響いていた。