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馬から降りてテントの準備をしている中、1人だけ逆方向に行く兵士がみえた。
何となく気になり、目で追っていると、その兵士はやがて落ちた腕の前に跪く。
「モーゼス…」
その兵はその腕を抱き上げ、泣きながら強く抱き締めた。
思わず目を逸らした。
草原に、血が飛び散っているのがみえた。
蒸発していないということは、そういうことだろう。
上を見上げ、目を瞑る。
脳裏にチラついたのは、地下街。
…人の死には、慣れていたはず。
この手で幾度となく人を殺めたこともあったし、隣人が次の日には死ぬ、なんてことは、茶飯事だったのに。
ふと、自分の両手を見る。
思い出す、地下街の日々。
あの頃は、生きるためには仕方がない、と思っていたけれど
私が殺してきた人々にも、家族がいて、友人がいて、大切な人がいて。
森の真ん中で、腕を抱きしめ泣き叫ぶ兵士が目に映る。
これなら、まるで、私も巨人と同じではないか…
イザベルやファーランを殺した、あの巨人と、私も同類では無いのか。
『何かを遺して』
『俺の分まで』
両手を握って拳を作る。
過去の過ちは、もう消すことは出来ない。
だから、せめて、せめてもの償いとして。
私は、人類に、心臓を捧げよう。
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「団長！巨人が現れました！」
テント用の布を広げていると、辺りの偵察を行っていたであろう兵が1人、慌てた声で地面に降り立っ。
「何体だ」
「目視できたのは一体です」
団長は、次にミケ分隊長に目をやる。
「ミケ。」
「…いや、北方面から多数です」
ミケ分隊長は鼻をすんと鳴らし、すこし強ばった表情で答える。
その返答を聞いた団長は、すこし表情を強ばらせた。
「団長。撤退すべきかと」
最初の奇行種で甚大な被害が出ており、さらに先程の一体でも被害が膨れている。
兵に戦力が足りていないのは、誰の目から見ても明らかだった。
「…あぁ…そうだな…」
森の中央辺りを見つめてそう呟き、後に声を張り上げた。
「全員撤退だ！壁外調査は中断する！」
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作者名：来世は春菊 | 作成日時：2023年11月25日 23時
