いつか、絶対に。【進撃の巨人】 (ページ32)

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#　30 ページ32

辺り一面に、馬の蹄を鳴らす音が鳴り響く。

　
　「開門30秒前───」

　ぴりっとした空気が張り詰め、兵士たちの表情は強ばった。

　
　思わず腰元に手を回し、それ(立体機動)の存在を確かめた。

　
　「5、4、3──」

　軽く目を瞑る。

　「───1」
　

　一斉に馬が走り始め、辺りには砂埃が舞った。

　
　『いつか、絶対に』

　
　脳裏に浮かんだ父に話しかけた。

　私は今日、やっと、約束を果たせる。

　門を馬の蹄が超えた瞬間、向かい風が吹いて、髪が風になびいた。

　新鮮な空気だった。

　今日は、雲ひとつない快晴で、絶頂の"壁外日和"だと語ったゲルトさんに目をやる。

　
　いつもと同じく冷静に見えるが、彼も少しばかり緊張しているようだった。

　
　空を見上げれば、果てしない蒼色に、鳥が群れを生して飛んでいた。

　「Aちゃん、どう？緊張してる？」

　私の右後ろにいたユレイナさんが、速度を上げて話しかけてくる。

　「はい、かなり…。」

　「だよね、私も初陣は緊張したなぁ。でも、大丈夫だよ、Aちゃんなら。」

　少し振り返れば、柔らかく微笑んだユレイナさんがいて、なんだか安心した。

　「絶対、生きて帰ろうね。」

　「はい！」

　ユレイナさんの声に、緊張が解れた気がする。

　先輩ってすごい！！

　そう、感動していると…

　前方から、大きな足音がする。

　────巨人だ

　「全員、戦闘用意！！心してかかれ！！」

　キース団長の声が響き、みんな一斉にブレードを抜く。

　
　初めて見る巨人は、とても気味が悪い…

　不自然な笑みを浮かべ、前方の先輩に手を伸ばす姿は、この世のものとは思えなかった。

　「Aちゃん。気をつけて」

　ユレイナさんが私の頭をぽんと撫で、やがて私よりも先に進む。

　
　出発前のリヴァイの言葉を思い出す。

　『いいか、新兵は生きて帰ってくればそれでいい。ろくに戦闘経験もないくせにちょこまか動かれると迷惑だからな』

　『んな、私だって戦うもん』

　『あ？俺は"戦うな"とは言ってねぇ。"生きて帰ってこい"って言ってんだ』

　『死ぬなよ、A。』

　あの時の、鋭い視線を思い出し、思わず身震いをした。

　イザベルに、ファーラン。

　2人を失った悲しみを、もう二度と、リヴァイに味あわせたくない…

　その時、後ろから男性兵の声が響いた

　
　「後方から奇行種一体！！」

　強大な足音が、鳴り響く。