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「では、これにて、本日の訓練を終了する。」
「ありがとうございました！」
訓練場に、キース団長の声と兵団の声が一斉に響き渡った。
それを聞いて、なんだか背筋がピンと張るような感覚になる。
団長が去り、各々が兵舎へと足を向けた頃。
ぽんと肩を叩かれ振り返ると、班の先輩方がいた。
「Aちゃん。これから暇？」
「はい、特に予定はありませんが…？」
そう、ユレイナさんに答えると、3人はにぃと口角を上げた。
「ちょっと着いておいでよ！」
嬉しそうに私の手を取り進むユレイナさんに、慌てて着いてくるゲルトさんとカイさん。
うきうきした様子のユレイナさんに、戸惑いながらもついて行く。
兵舎を横目に通り過ぎ、すこし人気の少ない場所をずんずんと進んでいく。
「ユレイナ、すこし早いんじゃないか？セルビターが困惑している」
後ろから、周りの様子をキョロキョロと見回していた私を見兼ねてか、ゲルトさんがユレイナさんへ投げかける。
「あ、ごめんごめん。びっくりしたよね？」
すこしペースを落としてこちらをみるユレイナさんに、大丈夫です、と答えると、頭を撫でられた。
とてもむず痒い気持ちになる。
やがて少し開けた道にでると、目の前にはとてもきれいな泉があった。
「すご…。綺麗…。」
泉には森の中の木々や、日が傾いて少し茜色に染った空が映っている。
とても感動して、思わず先輩方をみると、とても柔らかい笑顔をしていた。
「綺麗？」
「はい。とても…。ありがとうございます」
そういうと、先輩方は満足気に笑う。そして、泉の辺に歩みを寄せ、その水を両手で掬って見せた。
「おいで、Aちゃん。」
木の幹に生えているキノコを見つけて興奮しているカイさんとゲルトさんをよそに、ユレイナさんに近づき、同じように隣に座った。
「すぐに別れが来てしまうからね、調査兵団って」
静かにそう言ったユレイナさんの目には、なんとも言えない哀愁の色が浮かんでいる。
「昨日まで肩を並べていた仲間が、次の日には腕だけになってるとか。本当に、そういうことばかりだから」
そう、言葉を紡いだ彼女もまた、多くの仲間を失い、儚く散るその瞬間を、きっと瞳に映してきたはずだ。
「調査兵団になるって、そういうこと。今まで死んだ仲間たちに、これから死にゆく新兵たちに、何かを遺して行かなきゃ」
ユレイナさんの手から、掬った水が溢れ落ちるのを、ただただ見つめていた。
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作者名：来世は春菊 | 作成日時：2023年11月25日 23時
