# 14 ページ15
すっかり日が沈み切り、辺り一面は暗闇に包まれていた。
月は雲におおわれて、月光は遮断されていた。
風が吹く度に木々がさわさわと揺れて囁くのが、なんとも不気味であった。
調査兵団本部、団長室にて、3人の男が丸い机を囲んでいる。
やがて、その中の1人である、金髪に碧眼を持ち合わせた男──エルヴィン・スミスが口を開いた。
｢調査兵団への入団を希望する新兵は、年々減少を辿る一方です。このままでは、兵団の存続も危うい｣
彼が生み出した、物静かな圧は、やがて静寂と緊張感をもたらす。
その圧に負けじと、キースも口を開く。
｢では、新兵たちの勧誘をしに行くのか？｣
｢いいえ。私が提案するのは、新兵の勧誘ではありません｣
エルヴィンは落ち着いて答えると、1枚の書類をキースに差し出す。
｢こちらは、今期訓練兵の中でも極めて優秀とされている者の成績です。実技はもちろんのこと、座学も既に半年後に習う予定のものまで自主的に進めている｣
キースが書類を覗き込んだ。
そこには確かに、全てに"完璧"という意味のサインが書かれている。
｢そして何より、この者は立体機動の扱いに優れています。教官の話では、ベテランの調査兵にも匹敵するとされている程です｣
キースがふと、エルヴィンの隣に座るリヴァイに目をやる。
彼もまた、エルヴィンに才能を見込まれてここへ来た者であった。
｢私が提案するのは、この新兵をいち早く入団させることです。必ず人類の糧となるでしょう｣
碧眼の奥には、常人に理解出来ぬ熱情が込められているのだろう。
キースは圧倒され、思わず碧眼に見とれた。
｢団長の許可を頂ければ、と思います。｣
月を包んでいた雲が、やがて道を開け、月光が窓から差し込んだ。
薄らと3人の影を作り、透き通るような碧眼を優しく照らす。
｢──いいだろう。許可する｣
眉ひとつ動かさぬエルヴィンの表情には、確かな覚悟、そして好奇心が色付いていた。
やがて、団長室には1人になる。
雲はまた月を囲み、辺りは暗くなる。
キースの中に確かにあった不安が、やがて膨張して存在を主張し始める。
脳裏に浮かんだのは、自分のことを特別だと言い崇めた男の顔であった。
しかし、彼の頭には別の言葉も浮かんでいた。
───人類を変えるのは、あの碧眼かもしれない、と。
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作者名：来世は春菊 | 作成日時：2023年11月25日 23時
