CASE2-10 side和泉守 ページ27
和泉守兼定はこの本丸で顕現された刀剣男士であった。
分霊として遣わされた以上、呼び出した主の元で格好良く働きたいものだと思っていたが、呼び出されて応えた瞬間に「あ、これはマズイ」と他人事にも思った。
黒く濁った空気に、香水とやらの鼻が曲がるような匂いをして顔に白粉をぺたぺたと貼り付けた審神者。
人に振るわれる身分だったので贅沢をいうつもりは無いが、他の刀剣が折られていくのを見てすぐに審神者への愛想は尽きた。
あの同じ時代を駆け抜けた仲間が傷つき悲しげな顔をしているあの状態は二度と見たくない。
だが一番憤ったのはその中でも同じ持ち主の元で戦線を駆け抜けた相棒とも言える堀川国広のことだ。
自分と一緒に振るわれたあの名脇差がまるで玩具のごとくポキポキと折られていく姿には大層憤った。
それを審神者に抗議した時には、何故か目の前で堀川が折られ、自分は呆然としている間に寝所に引きずり込まれた。
何が何だか分からなかったが一回した後に他の新しい刀剣が来たらしく、もう"そういうこと"をすることは無かった。
だがあの手が這いずる気持ち悪さは中々忘れられず、どうせ折られてしまう堀川を見たくも無く、ただひたすら審神者の目に入らず過ごしてきた。
だが最近現れた御手杵は何というか、変だ。
"御手杵"は何度か会った事があるが、中々気の良い槍で戦い好きな奴だった。
槍は最初はあまり強く無いらしくすぐに折れていったが。
けれどこの御手杵は、あんな仕打ちをされた後にこの審神者を何を思う暇もなく陥れた。
審神者を見る目に嫌悪感はあったが、恨み辛みなどの俺たちの目に宿ったものは何も無い。
ただただ作業のように、それをしなければならないというだけで陥れたように、あいつの目には何も描かれていなかったのだ。
まるで機械のように、骨までを何なく折って。
「あ、あんた堀川の恨み晴らしたいのか?」
そのガラス玉のような目を見て思った。
──この御手杵は、壊れている。
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