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『───まぁ、取引だの契約だのと小難しいことを言ってはいるが、何も大したことではないさ』
君たちと私がこの家で暮らす為の決まりを作るだけなのだから、と魔女は言う。
『君は聡い。抵抗は悪手だと、ここまで大人しく着いてきたんだろうけれど……本当なら逃げ出したいんじゃないか？』
薄い唇から溢れる言葉はただの推測に過ぎないが、しかしどれもが的を射ていて、少年は思わず視線を逸らす。
魔女はそれを無理に追うような真似はせず、また手の中の羽根ペンをくるりと回した。
『ま、見ず知らずの女に買われたんじゃ、良い気がしないのも頷ける。ただ……そうだな、彼らが気掛かりで下手な手は打てない、と言ったところか』
羽根ペンの先が天井を向く。
“２階”を───“客間で眠る２人の少年”を指しているのだと気付き、グルッペンは肯定とも否定とも取れないほど微かに首を動かした。
コツン、とペン先がテーブルを叩き、少年の華奢な肩がびくりと跳ねる。
相変わらず感情の読めない瞳は、グルッペンを見ていない。
手持ち無沙汰にインクの瓶を軽く揺すり、浮いては沈む煌めきを追いかけて、長い睫毛に縁取られた目がすっと静かに伏せられた。
『……私は別に、君たちを一生この家に閉じ込めておきたい訳じゃない』
酷く平淡な声が、落ちるように宙に溶ける。
『君にも、きっと彼らにも、やりたいことの１つや２つはあるだろう？』
ふっと、息か声かもわからぬものを溢す魔女の透けるように白い肌の色に、少年は何故か背中がざわざわと疼くような、奇妙な居心地の悪さを覚えた。
『好きなことをすればいい。私の邪魔さえしなければ、君たちが何をしようと咎めるつもりはないんだ』
魔女はインク瓶を手放して、その金色の蓋を片手で開ける。
『学校に行きたいなら行くといい。……金は掃いて捨てるほどあるからね』
ペン先が藍色に染まり、踊るように羊皮紙の上を滑った。
『ただ、君たちが───独りで生きていけるようになるまでの間、この家で暮らしてくれさえすれば』
メルヴェ・フェリドール、と、上品な筆記体にインクが滲む。夜空の色が乾くまでの間に、少年は魔女の名前を知った。
『……私は、それで充分だ』
深淵のような魔女の瞳が、初めて感情の波に揺らぐ。
しかしそれも一瞬で、視線を上げればそこには凪いだ暗い瞳があるだけだ。
───ああ、きっと見間違いだろうと、少年はまた、静かに視線を泳がせた。
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シディア - わぁ！！！いなくなってた間にまた面白そうな作品が！！！他の作品も含めて続き楽しみにしています！ (2022年1月10日 14時) (
レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです！これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました！外したと思ってたんですけど……すみません！ご忠告くださった皆様、ありがとうございます！申し訳ありませんでした！！！ (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ！！ (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よなが | 作成日時：2021年11月22日 3時
