8 ページ8
ドラコは廊下を走っていた。
普段ならそんな下品な真似はしない。しかし、途中ですれ違った人に注意をされても、ドラコはその足を止めなかった。
そして、とある部屋の前で立ち止まると、その前で一つ、二つ、大きく深呼吸をし、気持ちを整える。目を閉じて、一度ぎゅっと瞑った後、ゆっくりと開く。
大きな扉の取っ手に手をかけ、その扉をゆっくりと開けた。
「…こんにちは」
真っ白な部屋の中央にはベッドが置いてあり、その上にはA・ガードナーが座っていた。ここは病室だった。
彼女は紺色の寝巻きを身に纏い、珍しく髪を一つのみつあみにしてまとめている。
彼女はぼうっと窓の外を眺めていたが、ドラコに気が付くとそちらを向き、ふと微笑んだ。
「こ、んにちは…」
初めて見るAの表情に言葉が詰まる。
いつまでも病室の入り口に突っ立っているドラコを見て、「ふふ、どうして突っ立っているの？変なひと」と言ってAは手招きした。
ドラコは言われるがままに歩み寄り、ベッド脇にぽつんと置かれた椅子に腰を下ろす。その流れは大変ぎこちなく、Aはまた「変なひと」と言ってくすくすと笑った。
「お見舞いに来てくれたってことは、あなた、私の友人なんでしょう。ちがう？…あ、ボーイフレンドだったりするのかしら」
彼女はにこにこと笑いながら首を傾げて、「どうなの？」とドラコに問いかけた。
───A・ガードナーは、記憶がなかった。
見ていた人の話によると、ドラコが倒れた後、彼女はドラコを庇うようにして戦っていた。どうやら、ドラコが最後に見たのは幻覚ではなかったようだ。
しかし、後ろから死喰い人に放たれた魔法に対処しきれず、それはAの頭部に当たった。…その衝撃で、彼女は記憶を失ってしまったようだった。
彼女の問いに何も答えられず、ドラコは黙ることしかできなかった。友人なんかじゃない。友人になんて、なれやしないのだ。
そんな不思議な男を見て、Aはまた「ほんと、変なひと」とくすくす笑う。細められた目が優しくて、ドラコは泣きそうだった。
こんな形で、初めて向けられる表情を見たくなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 162人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハリーポッター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽれ(プロフ) - 貴方の作品が本当に好きです。話数は少なめなのにそれに劣らない綺麗な言葉選びに登場人物の心情表現が本当にずば抜けてて普通に泣けました。ありがとうございます……、 (1月24日 0時) (
レス) id: aeee7d47d3 (このIDを非表示/違反報告)
レネット(プロフ) - ドッ…ドッ…ドラコォ…。最高です、更新頑張ってください。 (2021年10月17日 23時) (レス) @page11 id: ec8ec8961f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：深海
| 作成日時：2021年10月10日 20時
