寒くて寒くて暖かい夜の日 ページ2
午後六時。
事を済ませた私はホテルのシャワーに入っていた。腰が痛くて痛くて仕方ないのを、暖かいシャワーが癒してくれる。ようやく落ち着けた、と安堵の息を吐いていると背後からガラガラと扉を開ける音がして、冷や汗が流れ始めた。
「Aちゃん、一緒にお風呂入ろうよ〜。」
気持ち悪い。付いてくるな、止めろ。
頭の中に浮かぶのは、そんな事ばかりだけれど決して顔には出さない。
「もぉ〜、恥ずかしいでしょぉ。おにいさん入ってこないでよ〜。」
腰をくねらせて逃げれば、"おにいさん"とはどう考えても思えない男がニタニタと笑う。
「もお、逃げないでよAちゃん。」
「え、ッあﾝ………」
二時間ずうっと、しっぱなしだった。
あり得ない。顔を手で覆って溜め息を吐く。
シャワーに入り直すことも許されなかった。
腰も痛ければ、捕まれた手首にも痕がついていて手を動かすとじくじくと痛む。
でも、し直したこともあり得たお金は高額だった。
高額だった、それだけが心の慰みだった。
「おい、なにやってる。」
耳に馴染んだ澄んだ声、うっすら香る柑橘類の匂い。
引っ張られるように顔をあげれば今朝見た顔があった。
「銃兎、」
「何でここにいる。まだ８時だからいいか……。12時越えよりま「銃兎のご飯が食べたい。」
………………人の話を遮るな。此処を抜けた先に車を止めてる。歩けるか？」
「何で車止めてまでここ来たの？迎えに来てくれた？」
「歩けるんだな。」
「ごめんなさい。」
一言謝れば、す…と抱き上げられる。
今更、人目なんて気になりやしなかった。
首元に顔を埋める。染み付いた煙草の香りと、柑橘類の匂いが心地良い。
彼が歩く度におこる揺れが程よくて、いつの間にか意識は闇の中に葬り去られた。
不意に白米と味噌汁の良い香りがして、瞼が上がる。
卓上に並べられた夕食にお腹がキュルキュルとなってしまった。
「んなに腹が減ってたのか。」
「ん。食べて良い？」
「食え食え。そんで風呂入って、さっさと寝ちまえ。」
「………大好きッ！」
「止めろっ、くっつくな！」
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作者名：秋霖時雨 | 作成日時：2018年12月10日 18時
