あの日、初恋の匂いがした。【ベイバ超ゼツ 紅シュウ】

Scene25 世界は実に公平だ ページ25

「______手術が成功する確率は極めて低い。ほぼ皆無」
自虐的な笑みを浮かべて自身の生い立ちを語るAの話を、フブキは黙って聞いていた。
「…ペースメーカー」
フブキは呟いた。あの時Aがあんなにも焦っていた理由。隣に座っていた少年が電波を発する機器___携帯電話を使っていたからだ。
「正解。あの距離だと、誤作動を起こしちゃうかもしれないから」
驚くほどに冷静なAの一方、フブキの頭の中は混沌としていた。
病気…？死ぬかもしれない？こんなに優しいAさんが？
「そんなの…おかしい」
「おかしくないよ」
「どうして？まだ全然若いのに。こんなに輝いてるのに、Aさんが病気だなんて、不公平だ！」
「それは違うなぁ」
Aは軽く笑って言った。
「世界は極めて平等だよ。この病気に罹(かか)るのは、私でなくてもよかったのかもしれないけど、もしかしたらそれがフブキ君だったかもしれないし、シュウ君だったかもしれない。たまたま、世界に選ばれたのが私だっただけ。誰しもその可能性は平等にあるわ」
2人の頭上を羊雲がのんびりと通り過ぎていった。
「……ウさんには、シュウさんには、伝えたんですか」
フブキの問いに、Aは悲しげに首を振った。薄茶色の髪の毛が風に弄ばれて空を舞う。
「いいえ。彼にはまだ伝えたくないの」
フブキはさらに表情を引き締めた。
「シュウさんは明日に決勝戦を控えています。たぶん、あの人はこんなこと知ったらバトルでの集中力が落ちてしまう……」
「そう、その通りよ。だから、シュウ君が優勝したら、彼にこのことを伝えてほしいの。お願い」
透き通るような赤色の瞳は、同じ色の瞳を見つめていた。
「わかりました、もちろんです」
「よかった！」
ぱっと花が咲いたかのように、Aは笑みを見せた。
「Aさんの手術が成功したら、すぐに会いに行きます」
「ほんとに？」
「絶対会いに行く。何があっても、いつになっても」
「頼もしいね。それじゃあ私、今日は手術の前日だからもう帰らなきゃ！ばいばい！」
フブキは、Aの“帰る”ところが病院だというのが、とてつもなく悲しかった。でも彼女を心配させまいと、精一杯笑みを作って、「ばいばい」と返した。“さようなら”といったら、Aが遠くなってしまうような気がしたのだ。
「あ、そうだ」
Aは振り返った。
「どんな高い壁だって、希望さえ持っていれば、絶対に超えられるよ！シュウ君にも伝えといて！」
フブキは力強く頷いた。

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ほらほら、あの人から言いたいことがあるみたいですよ☆

シスコ「お前はオレだけ見とけばいいんだよ」

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