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城の医務室に運ばれたAは、規則正しい呼吸で穏やかな顔をして眠っていた。あの青色の紋章はすでに消えていた。この不可解な事態に六人は顔を寄せあった。
「Aが倒れる直前の様子は？」
「変なところは無かった。声がしたと思ったら、頭を抑えて倒れて」
「あの紋章は何。この中でそんな異能を持ってる奴はいない。外部からの攻撃か？」
「異能じゃなかったら、逆に何なの」
ピリピリと張り詰めた空気の中、安定した心電図の音が辺りに響いていた。ガラガラと戸が横に流される。六人の視線が集まった先には、カルテを手に持つぴくとがいた。
「Aくんに持病はない。他国の異能力者との接触も本人からの報告は無いよ」
ぴくとは眠りにつく彼を一目見ると、眉を下げて安堵のため息を吐いた。
六人が囲む小さな机の上にカルテを置く。それを凝視した彼らもまた、新たな情報が得られず肩を落とした。
「スマイル、だね。君は特殊部隊に加入ってことで良いのかな。悪いけど、外部の人間には、これ以上Aくんに関わって欲しくないんだよね」
「俺たちは加入に賛成です。良いよな、なかむ」
「仲間になるなら、信頼してやってもいい」
静かに立ち上がり、Aの元へ行くなかむの背中に、ぴくとは何も言わずただ頷いた。
「ぴくとさんは何か知らないの？青薔薇が関連する異能力者のこと」
なかむがいた場所に腰を下ろした彼は、ぶるーくの質問に淡々と答える。
「ごめんね、俺も分からない」
青い薔薇。どこかで見たことがあるような気がするが、どうも思い出せない。その歯痒さにぴくとは堪えていた。
城にある全ての異能の記録を見たが、青薔薇らしき異能についての記載はない。おかしなことと言えば、どの記録書も必ずどこかのページが破かれているということくらいだ。
「昔、お城にぴくとさんの他に五人の異能力者がいたんですよね。その人たちの中には？！」
Aの手を強く握る。なかむの大声は彼自身の怒りを増幅させた。
「五人…だったかな」
なかむを除く五人は、ぴくとの弱々しい姿に目を見開いた。時分の手のひらをじっと見つめ、こぼれ落ちる涙を拭おうとはしない。
そして、彼の頬に青い薔薇の紋章が薄く浮かび上がる。
「覚えてないんだ、僕は。皆には黙っていたけど、自分の代償が何かも覚えてない。それに」
______ずっと誰かを忘れているんだ。
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作者名：葡萄。 | 作成日時：2022年6月29日 22時
