第5話「さぁ、どうぞ」 ページ7
「…うわ」
思わず声が出てしまう。それくらい壮大な眺めだった。
魔導書塔と言うくらいだから本がいっぱいあるのか、くらいにしか思っていなかった分、驚いた。身長の何十倍もの高さの本棚には、大小様々な魔導書が並んでいる。違いはあれど、多種多様な魔が、外よりも強く感じる。
「…」
ユリウスは、柄にもなくずっと黙っていた。
Aは気づいてなかったが、この塔に入った途端に目を見開き、光が宿ったのだ。そのとき現れた瞳は、澄んだ青紫色をしていた。さっきまで、暗く、深い紫の瞳が、少し光にあたっだけで、こんなに綺麗な色になるなんて、と、みとれてしまっていた。
その隈もなくなったら、もっと。
「…A」
「…何」
「…いや、何でもないよ。それよりも、君に魔導書を渡さないとね」
言ってはいけない気がした。
綺麗な瞳に似つかわしくない、深く深く刻まれたその隈のことを。
その真意を知るのは、まだ先でいい。
ユリウスはすぅ、と息を吸った。塔主は野暮用か何かで出ているのだろう。
Aは気づいているのかわからないが、塔の回りに結界が張ってあった。
「魔導書、授与」
ユリウスの声と共に、赤、青、緑、たくさんの色の魔導書が空を飛び交う
はずだった。
全ての魔導書が少しも反応を示さない。まるで、Aの魔導書になることを拒否しているように。心なしか、魔導書の魔さえ、弱くなった気がした。
「これは……ん?」
その時、はるか遠くまでそびえ立つ棚の一番上から、1冊の魔導書が現れた。
途端に空気が変わる。禍々しいと感じてしまうほどの魔の量。これがまだ人の手に渡っていない、未熟な魔だと言うのなら、これが完全になったとき、どれほどの力を示すのか。考えるだけで、ユリウスでも身震いがする。
ふと隣のAをみてみると、何かを悟ったように目を細めていた。また元の、深い紫の瞳に戻って。
魔導書はまっすぐAの元へ来た。
黒々しい霧を纏った魔導書。
「闇魔法…」
ユリウスは、明らかになったAの魔法をつぶやく。特に言った意味はないけれど、何故か口が勝手に動いた。
Aが魔導書を手に取り、多少黒い霧が収まる。
さすがのユリウスも、驚きを隠せなかった。
「はは…すごいね…!」
纏う闇の隙間から、辛うじてみえるその表紙では、
四つ葉のクローバーが、黒く鈍く光っていた。
第5話「忙しいな、あんた」→←第4話「魔導書?持ってないけど」
78人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ミヤビ | 作成日時:2018年8月28日 20時