第5話「忙しいな、あんた」 ページ8
「ここが君の部屋だよ！好きに使ってね！」
「え、ちょ、ま」
Aが出すには珍しい慌てた声を聞き流し、ユリウスはそそくさと出ていく。
事の発端は、わすが5分前に遡る。
Aの手の中で未だに闇を放つ魔導書。まさか四つ葉とは思っていなかったユリウスは、驚きを隠さないどころか興奮をむき出しにしていた。
「闇魔法で四つ葉の魔導書…！！さ、触ってもいいかい？！」
Aはおそるおそるそれを差し出す。その顔は怪訝に目を細め、眉を寄せている。明らかに引いている表情だったが、それをいちいち気にするユリウスではない。
いや気にしろよ。と思うも後の祭り。しっかり魔法マニアに転職した現魔法帝は、Aの魔導書を嬉々として眺めている。
ちなみに魔法帝ということを知ったのはついさっき。陰口の中に「魔法帝」という言葉が出てきたとき、もしや、と思った。そして隣にいるそいつをみれば、何食わぬ顔で微笑んできた。確信したね、うん。どうやら俺は、とんでもない奴と一緒にいるみたいだ。
「…うん。君には思っていた通り、素晴らしい才能が眠っているね」
興味津々にみていたそれをAに返すと、ユリウスの声のトーンが落ちる。真面目な話をするようだ。
何となく嫌な予感がして身構える。
「A、」
ほらきた。
「入団試験受けよう！！」
「…は？」
身構えた体を緩くし、目の前にいるはずの魔法帝をみつめる。
だがそこに魔法帝はおらず、いたのは魔が無駄に強い魔法マニアだけだった。
「入団……………あぁ、まほーきしだん？」
異様に長い沈黙と音のみ覚えているかのような発言から、魔法騎士団さえもよく知らないことがわかる。
「そうそう！じゃあ行くよ！」
「は？」
一瞬宇宙空間のようなものに包まれるが、空間魔法が使われたことがわかる。でもユリウスがやっている気配はないから、他の魔導士が来たのだろう。ゆっくり目を開けてみるとそこは大きな部屋だった。ベッドや机がひとつしかないから一人用の部屋なのだろう。それでも広いのだけど。
窓からたくさんの家々が小さくみえている。景色からそれなりに高い土地にいるのだろうが、街の地理など把握してるわけないので、ここがどこかさっぱりわからない。
詳しい説明を求めようと口を開くが、
「ここが君の部屋だよ！好きに使ってね！」
「え、ちょ、ま」
ここで話は冒頭に戻るのだ。
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作者名：ミヤビ | 作成日時：2018年8月28日 20時
