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『行ったかな、拳くん、よく気づいたね』
「んーあの子、藤枝のファンの子かも。藤枝が出た名前だけランキング好きって言ってたし、何よりA見て表情が変わったし握手まで、それに藤枝いるか確認もしてたでしょ」
『そう言えば、どうして私と握手なのかなって思ってた。そっか祥のファンの方なのか』
「藤枝いるの言わない方が良いかなとも思ったけど、Aがいる時点で藤枝いないと言うのも信憑性に欠けるよね。それに俺たち二人きりと思われても困るしさ」
確かに、デートと思われるのも困る。伊沢さんと祥との二股報道を思い出した、またあんなことになって、拳くんと会い辛くなっちゃうのは絶対に嫌。そんなことを考えてると拳くんに抱き寄せられ、頬に柔らかい唇の感触を感じる。びっくりして慌ててしまう。
『ちょっ拳くん、何してっ』
「ふふっ、秘密の逢瀬って感じを出してみた〜」
『だ、だめだよ…いま二人きりと思われたら困るって言ったばかりでしょ』
「えへへっ、A可愛いなぁ。ここいい感じに陰になってるし今は誰も通ってないから平気だよ」
悪びれる様子もなく、そんなことを言う彼の腕から何とか抜け出した。拳くんって油断も隙もないないんだから、とため息を吐いた。
「そろそろ部屋戻ろうか、あの子戻って来る前に移動しちゃおう」
『そうだね、拳くん部屋に連れて行ったら、私お手洗い行くね』
「あっごめん、俺に話を合わせてくれたのかと思ったけど、トイレは本当だったのね。それならトイレ先に行こう」
そう言って拳くんは普通に歩き出した。目的地ではない方へ向かって行ってるのを見て苦笑してしまう。
『そっちじゃないよ』
「えっマジで？おっかしいな、トイレってどこ〜？」
その彼の様子に思わず笑ってしまった。彼が振り向いて恥ずかしそうに、なに笑ってんのと呟く。
『ごめんね、迷子の拳くん可愛いなって』
「アラサーの男が迷子なの可愛いと思えないけど、Aに可愛いって思ってもらえるなら、まあいいかって気になるよね」
『だって拳くん可愛いんだもん。ほらここに、こちらです、って案内表示あるよ』
トイレへの案内表示の矢印を指で指し示した。彼は、本当だ〜とびっくりした表情をしている。やっぱり拳くんって周りをあまり気にしてないよね。脳にそういった情報はプールされない感じなんだろうな。
謎解きなんかでは色々気づいて覚えているのに、日常生活においては気づかない、とても不思議に思う。クスッと笑って改めて目的地へと歩き出す。
『一緒に行きましょう、福良さん』
「はーい、よろしくお願いね〜」
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作者名：佐伯 | 作者ホームページ：
作成日時：2023年11月5日 10時
