忘却の館と秘密の鍵【本編】 (ページ16)

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【16/泣く少女/蓬莱こだま/ちがみ】ページ16

自己紹介のはずが訳の分からないことを言われ、その意味を尋ねたらこれまた突然大泣きされ……話しかける前よりもさらに混乱する。自己嫌悪と罪悪感で頭がパンクして、うまく回らない。どうしよう、どうしよう……と頭の中であたふたしていると、

「うぐっ……ひぐぅ…………た、尋ねたいこと、って……？」

と、相手の方から涙混じりに応えてくれた。だが正直、こっちはまだ切り替え切れていない。

「あ、ええっと……」

こちらを見上げる涙で潤んだ大きな瞳を真っ直ぐ見据えつつも、言葉が上手く出てこない。数秒、無言で見つめ合う。不味い、とにかく何か話さないとどんどん気まずくなる。

「まずはありがとうございます。こんな、初対面の女性を泣かせるような男を警戒もせず受け入れて下さって。お優しいんですね」

なるたけ良い笑顔を作り直して、頭に浮かんだ言葉を咄嗟に口に出すと、明らかに相手は身を固くした。また何か不味い事を言ってしまったかと危惧したが、泣き出しはしないから大丈夫だと思うことにする。

「それで本題なのですが……その、僕さっきの放送を聞き逃してしまって。内容を教えていただけませんか」

「え？」

恐れていた予想通りの反応が返ってきた。涙も引っ込み、彼女は目を大きく見開いた、「ポカン」という擬態語が似合う呆気にとられた顔をする。意図して作ったものではない、〝思わず顔に出てしまった〟、という感じが心にくる。だが自業自得だ。これしきの恥は黙って耐えなければ。

彼女は束の間硬直した後、「ハッ」とした顔をして、そのまた次の瞬間には「ぐぬぬ」といった調子で若干俯き顎に手を添え腕を組んだ。そのままの状態で数秒固まった後、パッと顔を上げた。自己紹介(？)の時と同じく澄ました表情だ。先程の大泣きする姿が想像できない程勝気な笑みを口端にのせている。

「成る程……いいだろう！魔界からの使者たるこの我が、蒙昧に耐えられぬ憐れな子羊に漆黒の光を授けようではないか……と、言えどもここでは我も、汝と同じ……1人の、稀人にすぎ、ぬ……」

黙って聞いていると、徐々に語尾が弱くなっていった。目には再び涙の膜が生成されつつある。顔もやや赤い。僕のせいではないはずだ。聞いてただけだから、大丈夫なはず……なのに何だか彼女を虐めている気分になってくる。