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EPISODE 06. ページ6

「いついくの?」
「もう、いくよ」
「そんなに、早く、いくの…?」
「もう迎えがくるころだからね」


母はぐつぐつと沸き立つ鍋の傍で、誰かを待っているとでも言うように、熱を持った、それでいて絡みつくような視線で窓の外を眺めている。

嗚呼、またこの目をする。私はそんな母を、枯れかけた花を見るような目でじっと見つめる。もしかして、母を迎えに来るのは幽霊ではなくて、死神なのではないだろうか。私の母をこんなにたぶらかして、魅了した、最低な半透明のあの人。


「ねぇ、お母さんは、もう行くけれど、貴方に何か言い残したことはなかったっけ。やり残したこととか」
「さあ。どうだろう。あるかもね」


……嘘だ。私はもう十分、母にいろいろしてもらった。幼稚園から大学までしっかり通わしてもらい、毎日三食お腹いっぱい食べさせてもらい、毎日お風呂に入れてもらい温かいベッドで眠らせてもらった。誕生日には大きなケーキと年齢分のろうそくで盛大に祝ってもらったし、プレゼントだって毎年くれた。反抗期のときは酷く冷たく当たって、けれど母は私を愛した。睨んだって、怒鳴ったって、抱きしめてくれた。


「そっか……」
「そうだよ、だから……」

行かないでよ、その言葉は結局飲み込んだ。


「できたよ、座って。あ、水だけよろしくね」
「うん」

私はカレーが皿に移されるのを見届けて、コップを二つ取り出す。水をコップの淵すれすれに汲んで持っていけば先に座っていた母がありがとう、とコップを受け取った。

私が座るのを待って、いただきます、と丁寧に手を合わせた母に続いて私も手を合わせた。母は昔から挨拶だとか礼儀に厳しい。昔、学生時代運動部に入っていたからだと母はよく言っている。


そんな母との、最後の夕食だった。

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乃海(プロフ) - 雪さん» はじめまして、コメントありがとうございます。すごく嬉しいです(;_;) 素敵な感想ありがとうございました! (2017年4月1日 10時) (レス) id: be24ee2730 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。タイトルに惹かれ読ませていただきましたが想像を遥かに越えた物語に号泣致しました。涙が止まりません、本当にありがとうございます。長々失礼しました。 (2017年4月1日 1時) (レス) id: d1d79a0ef0 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - 天。さん» コメントありがとうございます。私にはもったいないお言葉ですがすごく嬉しいです! これからもよろしくお願いします! (2017年3月27日 13時) (レス) id: 563e27cb0b (このIDを非表示/違反報告)
天。(プロフ) - 新作おめでとうございます!もう本当に流石としか言いようがありません。乃海ちゃんの繊細で美しい文章や表現、本当に素敵で、物語に引き込まれます。悲しくもどこか優しいストーリーで感動しました( ;o;) 次回も楽しみにしています! (2017年3月26日 6時) (レス) id: 92e7d22647 (このIDを非表示/違反報告)
乃海(プロフ) - ぽん(元あお)さん» ぽんコメントありがとう〜〜! ぽんからのコメントとてつもなく嬉しいです! ぜひ結婚しよう… (2017年3月25日 22時) (レス) id: 563e27cb0b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:乃海 | 作成日時:2017年3月25日 0時

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