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「一ノ瀬」
放課後。荷物をまとめて教室を出ようとしたら、声を掛けられた。
こんな風に評価してしまうのはきっととっても失礼なことなのだろうけれど。この間からやけに絡んでくる、なんだか、変な人。普段から多く話しかけてくるわけでもないし、クラスメイトであるということ以外に…席が近くとか、何かの活動で同じグループになったとか、そんな接点もない。
私に何度も声を掛けてくるところは百歩譲って普通であるとしても。
何度も話しかけられたおかげで法則性が読めてきたのだけれど。放課後の人の少なくなった教室、廊下、図書室。そういう、人目の少ない場所で声を掛けてくる。それはなんだか変なこと、だと思う。たぶん…。
私と話しているところを人に見られたくないということ?それでも、法則を見いだすことができてしまうくらいに何度も話しかけてくるのは、どうして?
「この後って、なんか用事ある?」
「…うん。テスト勉強。人を待たせてしまっている、から…帰る」
「そっかー。一ノ瀬はすごく真面目だよな」
「…普通、だと思うけれど…」
「そうかなぁ?…っと。ごめん。誰かと約束なんだっけ?また明日!」
何を考えているのか、なんだかよくわからなくて…わからない、から、ほんの少しだけ怖い。
なんとなく息を吐き出しながら、急ぐ。
目指している場所、今日はなんだか少し賑やかで…思わず足の動きを緩めてしまう。
悠馬くんの近くに集まって、なんでここにいるのか、と声を掛ける女子生徒が数人。近寄りはしなくても、視線を向ける人も多くいる。ほとんどの生徒にとって差別対象だった場所に行ってからも、変わらずラブレターを貰うほどの慕われぶりだった彼だから。どうしても注目を集めてしまうみたい。こんな光景は初めて見たけれど。
私がもう少し、早く出て来られれば良かったのだろうな…なんだか声を掛けにくい。
こちらに背を向けているから、見つけてもらうのも難しそう。
「…」
「うおっ!?」
後ろから近づいても気が付かない彼の袖を軽く引いたら、考えていたよりも驚かせてしまったみたい。
「えっと…遅くなってしまって、ごめんね。すごい、ね…?」
謝罪のあと、何を言ったらいいのかよくわからなくて、ようやく出てきた言葉は『すごい』だった。あまり関わりのない人からこうして話しかけられても動じずにいられるところ、とか。本当にすごいと思う。
「いや、全然。じゃあ行くか!」
「…いいの?」
「ん?行かないのか?」
「…いく」
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nano*(プロフ) - チキン神様さん» チキン神様さま、ありがとうございます。お待たせいたしました!続編も楽しんでいただけるように頑張りますね。またよろしくお願いいたします (2022年7月11日 10時) (レス) id: da0c6565c0 (このIDを非表示/違反報告)
チキン神様(プロフ) - ついに!ついにです!続編が公開されました!!nanoさんお疲れ様です〜! (2022年7月10日 21時) (レス) @page2 id: a44e6bddf2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nano* | 作成日時:2022年7月10日 21時