第29話『被害者』 ページ35
彩side
翌日。
私は事件ノートをカバンに入れて、自転車を全力で漕いで若武の家に向かった。
私が若武の家に着いた時には、小塚くん以外の人はみんなもう集まっていた。
10時ギリギリにやって来た小塚くんは、落ち込んでいる様子だった。
「ごめん。何度も連絡してみたけど、やっぱり出てくれなかったよ」
黒木くんが、小塚くんの肩に手を乗せる。
「気にするな。お前の責任じゃないだろ」
黒木くんは小塚くんを励ますと、真剣な表情でみんなを見回した。
「みんなに聞いて欲しいことがあるんだ」
きっと、昨日上杉くんと翼と話し合っていたことだろう。
話すってことは、確証がもてたんだ。
みんなが黒木くんに注目する。
「秀明生が通り魔に襲われた話は、みんな知ってるよな」
うん。昨日、先生が話してたから。
「その通り魔に襲われた秀明生っていうのは、神崎だ」
黒木くんの言葉に、みんなが息を呑んだ。
信じられなかったし、信じたくなかった。
身近な人がそんな被害に遭うなんて、初めてだったんだ。
嫌な予感が当たってしまった。
若武と小塚くんは目を見開いて放心していて、翼は暗い表情で目を伏せていて、上杉くんは額に冷や汗を浮かべていて、どこか落ち着きが無い様子だった。
「知り合いの警察から仕入れた情報だから、確実なものだ。木曜日の夜、塾の帰りに、後ろから刃物で肩を切られたらしい。」
若武が、ハッとしたように声を上げる。
「けど、塾の帰りなら、上杉が一緒なんじゃねぇのか?毎日送ってただろ」
上杉くんは、小さく首を横に振る。
「俺、その日は送ってないんだ」
心ここに在らずというように、弱々しい声だった。
「その日、秀明の玄関で神崎を待ってたら、神崎から連絡がきたんだ。『友達と帰るから、先に帰っていい』って。けど、怪しいと思ったから、直ぐに電話をかけたんだ。それで、今どこにいるか聞いたら、もう外にいるって言うから、俺は慌てて塾を出で追いかけたんだけど、どれだけ走っても神崎の姿はなかったんだ。だから仕方なく、その日はそのまま家に帰った」
上杉くんが選択を間違えたって言ってたのは、この事だったんだ。
上杉くんは青い顔をして、両手で顔を覆い、天井を仰ぐ。
やっちまった。
そう思っているのが伝わってきた。
きっと、すごく責任と後悔を感じているんだろう。
みんなが黙り込み、部屋には沈黙が広がる。
重たく、とても冷たい空気だけが部屋に流れた。
276人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「探偵チームKZ事件ノート」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
澪(プロフ) - ゆたんぽ。さん» えー!嬉しすぎます!ありがとうございます! (2022年4月19日 17時) (レス) id: 7aa13dcf7f (このIDを非表示/違反報告)
ゆたんぽ。(プロフ) - 初コメ失礼します。いや、面白すぎませんか?更新楽しみにしてます! (2022年4月19日 15時) (レス) id: 00d669ff5e (このIDを非表示/違反報告)
@白猫雪(プロフ) - 澪さん» いえいえ!本編も、オリジナルも、楽しみにしてるのっ! (2022年4月16日 20時) (レス) id: 23d1cff2e4 (このIDを非表示/違反報告)
澪(プロフ) - @白猫雪さん» ありがとうございます!とっても嬉しいです!これからも頑張って更新するので、よろしくお願いします! (2022年4月15日 23時) (レス) id: 7aa13dcf7f (このIDを非表示/違反報告)
@白猫雪(プロフ) - 更新楽しみ〜!KZのオリジナルめっちゃ好き!澪ちゃんも、更新頑張ってね! (2022年4月15日 21時) (レス) @page50 id: 23d1cff2e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:澪 | 作成日時:2021年10月26日 22時