笑顔の仮面は知っている9【探偵チームKZ事件ノート】

第38話『事件だ！』 ページ13

杏奈side



若武くんは、もっともだというような顔になり、私に向き直った。

「そいつの名前をはっきりさせとけよ。KZ会議に呼び出して、再教育してやる。でないと、美門が捜し出してリンチしかねないからな」

私は、話さないわけにはいかなくなった。

「兵藤だよ。兵藤勇太。」

美門くんは、ああといったように軽く頷く。

「あの、だるそうな奴でしょ」

そう言ってから、ふっと考え込んだ。

「あんなふうなのは、もしかして危険ドラッグのせいかもしれない」

そうなの？

「上杉、危険ドラッグを使った時の症状って、どんなの？」

美門くんに聞かれて、上杉くんは腕を組み、ソファの背にもたれかかった。

「ドラッグによって違うんだ。大きく分けると、アッパー系とダウナー系の2つ。合成カンナビノイド類はダウナー系で、大麻に似てて意識障害が出る。時間感覚が通常と違ってきたり、痛みを感じなくなったり、だ。だけど中学生に買えるような値段じゃねーよ。その製造現場にいて、知らず知らずに吸い込んでるってことならあるかもしれないけどさ」

そうであってほしいよ。

「諸君、無駄口はやめるんだ」

若武くんが大きな声で言い、その場を収拾した。

「神崎の立場はわかった。美門の方は、どうなんだ」

問い詰めるように聞かれて、美門くんは慌てて首を横に振る。

「自分で使ったわけじゃないよ。昔フランスにいた時、偶然に接近遭遇しただけ。俺の祖母は、パリの北のアラスって市の出身なんだけど、そのアラスは、国境の近くなんだ。隣はベルギーで、その北側はオランダ。高速道路で結ばれている。オランダでは18歳以上になると、大麻を自由に買えるんだ」

そうなんだ！

「で、そのオランダで買った大麻をフランスに持ち込む連中がいて、警察がよく高速道路の出口で見張ってたんだ。俺が祖母と一緒にその近くのロータリーを通り掛かった時、パトカーがオートバイを追跡してて、ロータリーですごいカーチェイスが始まってさ。警官がパトカーの中から発砲、オートバイは転倒して、荷台にあったバッグから荷物が飛び出したんだ。乾燥した植物みたいなのがバっと辺りに飛び散って、俺の足元まですっ飛んできた。目いっぱい吸い込んだよ。後で警察から、それが合成カンナビノイドだったって聞いたんだ」

美門くんの経験って、驚かされることばかりだ。

「よし！」

若武くんの意気込んだ声が響く。

「諸君、喜べ、これは事件だ！」

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