笑顔の仮面は知っている8【探偵チームKZ事件ノート】

第23話『説得』 ページ48

杏奈side



若武くんはギクッとした。

「もう巣立ちっ！？」

小塚くんは軽く頷く。

「雀は、孵化してからだいたい2週間くらいで巣立つんだよ」

若武くんは息をつめ、雀に目を向けた。

「あと1週間で、俺、こいつと別れなきゃなんないの」

呆然とする若武くんに、小塚くんがキッパリと言った。

「野生の鳥は、野生に戻さないといけないんだ。これだけ慣れてると、手放すのは辛いと思うけどね、でも返さないとダメだ」

若武くんは泣き出しそうになった。

「俺が、抱いて孵したんだぜ。また目も開かない時から毎日食べさせて、ベッドの中に入れて、夜中も面倒を見て、ずっと一緒に暮らしてきたんだ。放したくないよ。俺のだ」

小塚くんは気の毒そうな顔をしたけど、譲らなかった。

「ダメだよ、若武。この雀は、一つの命だ。誰かが、自分のものでもない命を所有するなんてこと、できないんだよ。この雀にとっての幸せは、自然に帰ることなんだ」

それから、小塚くんが若武くんを真剣に説得し、やがて若武くんは「わかった」と言った。

悲しんでいる若武くんに、黒木くんが言う。

「良い親は、巣立つ子供にすがりついたりしないもんだろ。子供なんて、いつかは離れていくものだ。最後までそばにいるのは、友達だけだよ」

そう言いながら、私たちの方に視線を流した。

上杉くんが、俺のキャラじゃないんだが、と言いたげな顔で呟いた。

「若武、おまえには、俺たちがいるじゃないか」

やば、笑っちゃいそう。

そして、彩ちゃんが核心に踏み込む。

「そうだよ、一緒にKZ活動、再開しよう」

若武くんは、ふっと顔を上げた。

「そうか、KZか」

小塚くんが大きく頷く。

「そうだよ。再結成しよう！」

私たちは若武くんを見つめる。

このまま上手くいくといいんだけど・・・。

「いや、」

若武くんさ、目の光を強くした。

「俺は男だ。1度解散したものを、未練がましくまた始めるのはいやだ」

めっちゃ頑固じゃん。

これは面倒くさいな・・・。

少しイラッとしたが、それを表情に出さず、私はニコッと笑って若武くんの顔をのぞきこんだ。

「たしかにKZは解散したけど、それでいいの？1度も世間に認められないまま終わっちゃうんだよ？どうせなら、最後に大きな事件を解決して、世の中に認められてから解散の方がかっこいいと思わない？」

若武くんの顔が輝く。

「そうだ、解散するならテレビに出てからだ」

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