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第67話『シュン・サクライ』 ページ50

杏奈side


部屋の中には、大きな体をした男の人たちが、唖然としてこっちを振り返っているところだった。

「立花、噴射っ!」

美門くんに言われて、彩ちゃんは噴射器のレバーを倒した。

瞬間、ものすごい勢いで白い粉と煙が噴き出し、あっという間に辺りが見えなくなる。

私は目を閉じて耳を済ませる。

たくさんの音が聞こえる。

その中でも、大切な音だけを聞き分ける。

私はボディーガードたちの動きを必死に叫んで伝え、彩ちゃんと美門くんの補佐をする。

美門くんは、彩ちゃんに指示を出しながら、どんどん催眠剤を噴射していく。

どれくらいの時間、それが続いたんだろう。

やがて、満足そうな若武くんの声が上がった。

「オッケ、諸君、完璧だ」

あたりにもうもうと立ち込める煙の中、男たちは全員、床に倒れ、気持ちよさそうに眠っていた。

何人かは、いびきをかいている。

それを見回しながら若武くんが寝室から階段をおりてきた。

綺麗な唇の端が切れ、血が滲んでいる。

若武くんの後ろに続いてる上杉くんと黒木くんも、それぞれ顔にアザを作っていた。

「よぉし、これでうるさい連中の始末は終わった。いよいよ『ブラック・メアリー』の奪還だ。行くぞっ!」

私たちはシュン・サクライさんの部屋のドアの前に立った。

「上杉、鍵開けて」

若武君が言い、上杉くんがまた鍵を開けた。

「中にいるのは2人きりだけど、おそらくシュン・サクライ氏は銃を持ってるだろう。眠らせるか?」

その方がいいかもね。

「よし美門、アーヤ、前に出ろ。俺がドアを開けるから」

若武くんがそう言った瞬間だった。

部屋の中から、ドアに近づいてくる足音がする。

音からして、大人だ。

シュン・サクライさんしかいない。

私は前にいた美門くんの服の裾を掴む。

「神崎?」

美門くんがこちらを振り返った時、ドアがギッと音を立てて、ゆっくり内側に開き始めた。

「やぁ!」

そこから顔を出したのは、やっぱりシュン・サクライさんだった。

初めて見た時から感じていた。

この人を見ると、なんだか頭が真っ白になって、心が揺さぶられる。

視線が、シュン・サクライさんから逸らせない。

サトケンさんの言葉が頭をよぎる。

「シュン・サクライのお気に入りみたいだから、そいつ」

私がシュン・サクライさんを見つめていると、目が合い微笑まれる。

その笑顔は、初めて学校で見た時の笑顔と同じ、優しい笑みだった。

その笑顔に、何故か私は恐怖を覚えた。

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(プロフ) - 紗奈#さん» ありがとうございます! (2020年7月26日 16時) (レス) id: 2b665a7700 (このIDを非表示/違反報告)
紗奈#(プロフ) - 続編嬉しいです!頑張ってください!! (2020年7月26日 11時) (レス) id: 6ea719cde4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2020年7月26日 0時

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