笑顔の仮面は知っている2【探偵チームKZ事件ノート】

第73話『悪い人』 ページ26

杏奈side


悪党。

私はそう思ったけど、それで美門くんが助かるならどうでもよかった。

「こんな夜に、大々陸建設なんて大企業の社長と連絡が取れるのかよ」

若武の疑問にも、黒木くんは難なく答えた。

「そこは、東西関東建設の青池を使う。共犯者の青池なら、加藤雅也の連絡先を知っているはずだからね。まず青池に、あなたは重症熱性血小板減少症候群にかかっている恐れがあると言って脅し、加藤に連絡を取らせる。そして次に加藤を脅すスリーブの隠蔽を世間に公表されたくなかったら、二人を金田の病院に入院させるように言うんだ。金田の病院は、民間救急ヘリを持っているはずだから、それで美門と青池を今夜中に移動させられる。国立感染症研究所が調査に入る前にだ。いったん入院してしまえば、まさか放り出すようなことはしないよ」

きっと上手くいく。

そんな気がした。

「青池の住所は、わかってるの」

小塚くんの突っこみも、黒木くんは軽くかわした。

「俺が昼間行った東西関東建設の事務所、あの二階が住まいになってるんだ」

それで全員が黙り込み、黒木くんの完全勝利。

すごすぎる。

「わかったよ」

若武くんはいささか残念そうだった。

「髪も乾いたことだし、じゃ、脅しに行くか」

目の上にこぼれ落ちる前髪をかきあげた若武くんに、上杉くんも小塚くんも頷いた。

彩ちゃんと私も、もちろん大きく頷いた。

でも。

「アーヤと神崎は、帰れ」

え。どうして？

「こういう荒っぽいのは、男の仕事なんだ。お前らは帰れ。これは命令だ」

若武くんそう言い捨てて出入口に向かい、その後ろに上杉くんが続いた。

「またな」

黒木くんが微笑んで、私の脇を通り過ぎる。

「お休み、姫君」

最後に小塚くんが言い残した。

「無事を祈っててよね」

なんだかそれって、やだな。

でも、命令なら従うしかない。

私と彩ちゃんは顔を見合せた。

「帰ろっか。彩ちゃん、家どっち？送っていくよ」

彩ちゃんはとんでもないと言うように首を横に振った。

「いいよ。悪いし」

「私が彩ちゃんと最後まで一緒にいたいの。あ、でも一緒に帰りたくなかったら断ってくれて全然いいからね」

彩ちゃんはこれまたブンブンと首を横に振った。

「一緒に帰りたい！」

力強くそう言われ、私はクスッと笑う。

「じゃあ、帰ろっか！」

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