笑顔の仮面は知っている2【探偵チームKZ事件ノート】 (ページ12)

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第59話『コッペリア』ページ12

杏奈side

帰りのエレベーターの中で、上杉くんが彩ちゃんに言った。

「パターンの件は、俺がやるから。ついでにM＆Mとの連絡もやっとく」

私は、また彩ちゃんがムスッとしてしまうと思った。

でも、彩ちゃんは頷いた。

「よろしく」

上杉くんは驚いた様子を見せたが、親指を立てて自分を指しながら微笑んだ。

「任せろよ」

ほっ。

私は安堵の息をつく。

彩ちゃんが若武くんの方を見る。

「私、体が空いたよ。なにか仕事、ない？」

若武くんは少し考えてから答えた。

「美門の代わりをやってよ」

彩ちゃんは真っ青になる。

若武くんの指令って、たまにいじめレベルに酷い。

「無理っ！そんなこと、できるはずがないっ！！」

息が荒くなるほど大声で言った彩ちゃんを、若武くんはなだめにかかった。

「踊らなくていいからさ。立ってるだけでいい。置いてある人形とか、彫刻のイメージでいいんだ。それだったら、いいだろ」

彩ちゃんはそれでもなお、嫌そうな顔をしている。

「あ、Ｍ＆Ｍでおまえが見とれてたドレスを着てもいいよ。それなら、やってもいいって気になるだろ。美門は衣装作りをスタッフに任せるつもりだったんだから、もう出来てるあれを貸してもらっても同じことだし。出場するのが恥ずかしかったら、人形みたいなマスクをかぶってもいい。ただ立ってるだけでいいんだ。ほんと、それだけでいいから、お願い、やってよ」

そう言った若武くんの瞳はまっすぐで、真剣だった。

それで、私は思った。

美門くんと一緒に立つはずだったステージに1人で出ることになって、若武くんは不安に思っているのかもしれないって。

「それだったらさ」

黒木くんが言った。

「曲を『コッペリア』から取って、人形として立っているアーヤの周りで若武が踊るのがいいんじゃない？」

コッペリア？なにそれ。

「それ、すごくいいと思うよ」

小塚くんが言った。

「元々バレエ曲だから踊りやすいだろうし、ブレイク・ダンスに合わせたら意外性があって、斬新さが出ると思うよ」

ああ・・・私がわかってないままどんどん話が進んでいく。

というか曲もう決まったの？

上杉くんが肩をすくめる。

「まぁ悪くないんじゃね。音楽ゆるいと思うからさ。アレンジで巻きにすれば、今までのよりずっといい。なんと言っても、パターンを1人分だけ作ればすむってのが最高だ」

ちょっと皮肉な言い方だったので、黒木くんがクスと笑った。

「じゃ賛成票多数で、可決だ。アーヤ、いいね」