第12話『らしい人』 ページ45
杏奈side
「待たせてあった車に飛び乗って逃走だ、くそっ!」
上杉くんが聞いた。
「何だったわけ?」
美門くんは顔を上げて、青あざのついた頬をゆがめた。
「さっき立花にぶつかって赤い仮面を落としていったのは、今朝、俺たちバスケ部員と神崎を襲ったやつだ。今朝は、目だし帽をかぶっていたから顔が見えなかったんだけど、今、臭いでわかった」
若武くんが勝ち誇ったような声を上げる。
「ほら見ろ。事件だろ」
上杉くんが苛立って言った。
「だから何の事件なんだよ。美門と神崎を襲った目出し帽の男が、コスプレ仮面を落として、車で逃走したっていう事件か?はっきり言って、それは、美門と神崎を襲ったってとこだけしか事件じゃねーだろ」
若武くんも焦れたように言い返す。
「いや、この陰には、美門と神崎が襲われた以上の大事件がひそんでいるに違いない。全貌は、これからはっきりさせてみせる」
「そのぐちゃぐちゃな頭をなんとかしろ」
若武くんはキョトンとした顔になる。
「どこがグチャグチャなんだよ」
若武くんは、自分の矛盾がわかっていないみたいだった。
「おまえねぇ」
上杉くんはもどかしげな顔つきになり、若武くんをにらみすえると、口の中でひと言ひと言を噛み潰すように言った。
「さっきも言ったけど、立花にぶつかった男が、赤い仮面を落として、車で走り去ったってだけじゃ、事件じゃない。立花も怪我をしていないんだし、ぶつかって謝りもしない無礼な奴が落とし物をしていったってだけだろ」
うんうん。
「その男が、美門と神崎を襲った目出し帽と同一人物だってことがわかって初めて、二つが繋がって事件性を帯びるんだ。美門と神崎の事件に関しては、俺もムカついてる。犯人を見つけるために力を貸すよ。だが、お前の妙な勘なんかに引きずり回されて、得体の知れないコスプレ仮面に使う時間は、俺にはない」
反論の余地がない意見に、若武くんがどう返すのかを窺う。
「あ、そう」
若武くんはあっさり言い、私たちに向き直って背筋を伸ばした。
「探偵チームKZの諸君、俺が言いたかったことは全部、今、上杉調査員が言ってくれた。これは栄えあるKZメンバーになりたがっている美門翼と神崎杏奈、彼らを襲った奴へのリベンジだ。犯人をあぶり出すために、皆で力を合わせよう。事件名は、美門&神崎襲撃リベンジ事件だ」
いいとこ取り。
私たちは唖然として若武くんを見つめる。
まあ、若武くんらしいっちゃらしいかも。
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桜@ひなた - 落ちは、翼がいいと思います! (2023年2月19日 18時) (レス) @page4 id: fb711c9d23 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - オチは、翼か黒木くんがいいです!推しなので・・ (2022年2月27日 8時) (レス) @page3 id: 8e64252870 (このIDを非表示/違反報告)
Snow(プロフ) - オチは翼がいいです!! (2021年3月19日 12時) (レス) id: 1bc28cf27b (このIDを非表示/違反報告)
マカロンY - 320526 オチは翼 (2021年3月4日 21時) (レス) id: 23d1cff2e4 (このIDを非表示/違反報告)
bigaru(プロフ) - 落ちは翼希望です!翼落ちのお話が少ないので・・・ (2020年7月29日 19時) (レス) id: 4e79474d44 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪 | 作成日時:2020年6月17日 0時