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5_重症なのはお互い様。 ページ6

「お兄ちゃん!」

病院の扉を勢いよく開けて、お兄ちゃんが居るらしい病室に飛び込んだ。

廊下ですれ違った看護師さんに睨まれたけど、そんなの気にしてられない。

「……サヨリ」
「良かった、生きてる、ここにいる…」

安堵から膝の力が抜ける。

へたりと床に崩れ落ちる私に、お兄ちゃんのお母さんが微笑を浮かべて言った。

「心配させてごめんね。意識が戻ってない状態だったものだから…ちゃんと確認してから知らせるべきだったわね」

その言葉に、首をぶんぶんと横に振った。

「そんなことないです!早いうちに知らせてくれてありがとうございました…」

「サヨリちゃんはとっても優しい子だね。…ツカサ、お前の不注意で起きた事故なんだ。今度からは気を付けること。…サヨリちゃんをこれ以上心配させないためにも」

お兄ちゃんのお父さんが言ったことは、少し厳しいながらも息子を想う尊厳が感じられた。

「…はい。ごめんな、父さん、母さん。…サヨリも」

俯いたままお兄ちゃんが言った。

交通事故にあったらしいが、お兄ちゃんのお父さんの言う通り、本人がよそ見をしていたせいで信号が赤に変わったのに気付いていなかったらしい。

そこに車が走ってきて、お兄ちゃんは両足を怪我した。

それは言葉では簡単に言い表せない災難だったが、本人の不注意だった以上一概にお兄ちゃんのせいではないと割りきり、励ますことは出来なかった。

だから、そこを回避するためにも…「生きてて良かった」なんて無責任にも等しいことが言えた。

お兄ちゃんにとっては、全く良くなんてなかったのに。

…後から分かった事だが、重い怪我を足に負ったお兄ちゃんは、自らの足で立つことが出来なくなっていたらしい。

それどころか、現状では起き上がることすらも困難だと。

お兄ちゃんの大好きだったバトルが、彼は出来ない身体になっていた。

今思えば、無知とはなんて恐ろしいんだろうと自分でも震える程に、あの時の私は残酷な発言をしていたんだ。

それに、しっかり者のお兄ちゃんが道路でぼんやりとよそ見なんてしていたのだって、後から思えばあり得ないことだった。

『……格好悪い所、見せてごめんな』

脳裏にお兄ちゃんのはにかむ顔が浮かび上がり、涙で目の前が霞む。

あの日の…私の、せいだったんだ。

私があの言葉を否定していたなら…

考えてももう遅い。

時間は流れるばかりで、決して巻き戻ってはくれない。

その日の晩は布団の中で、ただひたすらに泣きじゃくった。

途中で心配して駆け寄ってきてくれたサニーの体温の暖かさが、胸に染みたのを覚えている。

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作者名:春雨 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年5月30日 16時

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