1_私と彼と ページ2
「お兄ちゃん?」
どこー?と呼び掛けながら、辺りを見回す。
町中を探し回ってもいないから、こんな所まで来ちゃったけど…
流石にこんな所にはいないかな、とすぐ近くのきぼんぐりの木を見ながら思った。
「もう一回家に行ってみようかな?」
もしかしたら入れ違いになってるかもしれないし。
そう思って、踵を返そうとした時。
風に乗って微かに男の子の声が聞こえた気がした。
「…?誰かいるの?」
こっちはたしか、ずっと行けば洞窟がある方向だったと思うんだけど…。
もしかしたらお兄ちゃんかな?
淡い期待をよそに、足を進めてみる。
「お兄ちゃん…?」
岩影から顔を覗かせた私が、目にしたのは。
おんなじスクールに通う三人の男の子に囲まれて、地面に顔を伏せているお兄ちゃんの姿だった。
その瞬間、その場で何が行われているのか理解した。
…ショックだった。
なんで、どうして?いつから?いつもされてたの?
思考が一気にキャパオーバーしそうだった。五月蝿く働く脳とは裏腹に、足はその場に打ち付けられたみたいに動かない。
「お前さ、ムカつくんだよ。何?サヨリだっけ?」
「ポケモンも持ってない弱いヤツをスクールに連れてきたの、お前なんだよな?」
「結局さ、弱いヤツの前でしかいい格好出来ないようなお前は強くなんてなれねーよ」
…ああ、そっか。
「…私の、せいで」
口から乾いた声がこぼれる。聞こえたらしい一人が振り返った。
「げっ、噂をすればなんとやら」
その子の声を聞いて、あとの二人もあたしに気が付く。
「やばっ、行こうぜ」
「タイミング悪〜…」
それはこっちの台詞だよ。
私の脇を何食わぬ顔で通り抜けていく三人組。
悔しかった。
どうしようもない、弱い自分。
お兄ちゃんの不様な姿を見て、そんな風にした彼らへの怒りよりも失望に近いショックだけを受けた私が、惨めったらしく恥ずかしかった。
「……格好悪い所、見せてごめんな」
お前のせいじゃないよ。
そう言ってはにかむお兄ちゃんが、急に凄くやぼったく見えた。
無理して笑うお兄ちゃんを、「そんなことない、今だってカッコいいよ」って抱き締めてあげれば良かったのに。
私は、凄く自分勝手だ。
情けなくて、涙がこぼれ出る。
そんな私を見て、お兄ちゃんも悲しそうな顔で静かに俯いた。
彼を分かってあげられたなら、大切な幼なじみは救われたかもしれないのに。
そう出来なかったのは、私が大いなる子供心を持っていたからなんだろう。
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