２本の歯ブラシと時空のおじさん 【フリーアートシリーズ】

　４話　時空のおじさん登場 ページ4

(変なの――。)



　妙な気持ちになりながらも、流し目で歯ブラシをギリギリまで見、洗面所を後にした。リビングに入って大和を一瞥し、




　「そろそろ寝るから、テレビの消し忘れだけには気をつけてね」
　「りょーかぁい」




　大和は歌うように返事をし、軽く敬礼した。その後、ゆっくりとテレビに向き直した。何事かもなかったように振る舞う。これだからスポーツオタクは。




　はぁ。




　溜息がつい出てしまう。大和の横を通り過ぎ、奥の寝室に行く。まだ新しいフローリングは鈍く光っているのに、大家さんは襖の造りを変えてくれなかった。




　少々の残念感が心に抱かれるものの、空間に無理矢理溶け込ませた和洋折衷がまた良いというか。年号が平成になってそう深くなく、昭和感が残せている部分が良いというか。




　襖にある丸い凹みに指をかけ、左へひく。凹みの部分から視線を元に戻すと、黒く大きい物体が見えた。背筋がぞくりとした。一気に体温が下がり落ちて行く。元々真っ暗な部屋なのに、そこだけ浮いて見える。




　畳の上に置かれたベッドにスーツ姿のおじさんが首を下げて、どっしりと腰をかけている。膝上にはハット帽、左手にはステッキが。




　真後ろにある窓から風が入って来て、おじさんの白髪がもわもわと靡いている。

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