２本の歯ブラシと時空のおじさん 【フリーアートシリーズ】

　18話 ページ18

道子の憐憫を催した言葉に、大和は喉から嗚咽を出した。口元には微かな笑みと、目には虚無感に満ちた涙が。



　時空からきたおじさんは、この人情を何回間の辺りにして、何を思っているのだろう。悲壮か、それとも無情か無常か。思っている場合は、どのように脳味噌で処理をしているのだろう。答えは誰にも分からない。




　おじさんは人型のロボットだとしたら、――？




　大和は再びおじさんに手をひかれ、時空に一歩踏み出した。地球の宝である涙も、時空では通用する物質なのだろうか。動脈に異変は起こらないのだろうか？ 血液は無くなってしまうのだろうか？




　果たして時空という超越に人間のボディが耐えられるのだろうか？




　時空の世界で、何が起こるかは誰にも予測がつかない。




　「そうだ。廣瀬 大和様が死んだ後も叫んでいたことがあります。その叫んでいた言葉は、大和様の魂から聞くことが出来ます。魂はどうやら歯ブラシに移り変わったようなのです。そうですね――。




　洗面所の歯ブラシ。




　何度も顔を洗わなくても、何度もお化粧をし直さなくても、何度も髪をとかさなくても、貴方は綺麗だと。鏡の前の歯ブラシが言ってくれていますよ。




　それでは。もう二度と会わないことを願います」



◇END◇

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