十五日目 ページ15
『別に食べる気はないよ。
いや、食べる気も起こらない』
「酷ないか？もしかしんくても僕のこと嫌いやな？」
『うん』
「泣きそう」
茶番を交えながらも会話をする二人にゾムは杞憂だったか、と眉を潜めた。
「とりあえず、Aさんは明日皆の前に出てきてほしい。...あ、昼ね？」
『なんで』
勝手に取り締まるゾムに嫌悪感を露にするA。
「夜起きられへん奴がおんねん」
『わざわざ朝起きろと？嫌だよ、ずっと寝てたい』
「駄目人間やん」
小言を突っ込んでくる鬱を睨み付けるA。
『はぁ...仕方ないし、一度だけだからね。私、下手すれば死ぬんだから』
「死んどるやん」
『魂が死ぬんだよ。今は魂があるからこうして保てているけど、何らかのトリガーでいつ死ぬかなんて、分からないんだから』
ふーん、と興味なさげに頷くゾムに『最近の子は年上を敬えないのか...憐れだね』と呟く。
「ま、なんや。頼むで」
『どこ？いつもの場所？』
鬱のベッドの上に座り込むA。
鬱は「それでええと思う」とゾムへと目線を動かした。
「...あ、迎えに行くで。変なことされたり逃げられたら堪ったもんやないし」
ゾムがそう言い手をあげた。
そこまで警戒する？と苦笑いを浮かべるAに、引くことを知らないゾムは「いつも何処におるん？」と聞いた。
Aは呆れ返りながらも、『裏庭にいるよ、私は』と告げた。
裏庭ね、と頷くゾム。
裏庭には光が差すものの、木陰などがはっきりとして綺麗な場所とも言われている。
なにより、ゾムは直ぐ側にある飼育小屋に遊びに行くこともあるので、良く通るはずなのだが...
気がつかなかったな、とゾムは内心焦った。
もしかしたら、自分の知らないところで誰かとAが接触していたのかもしれないと考えると、ゾムからしてみれば焦燥感しか生まれなかったのだ。
「...なんで死んだん、Aちゃん」
鬱の言葉にAは口を閉じた。
強い、はっきりとした意思を持つ瞳がAを刺す。
いつもそのような意思があれば、人に惑わされることもないのだろう。
まぁ、それが出来ないところもまた個性なのだろうが。
Aは笑って誤魔化し、『じゃあ、また明日』と早々にベランダから消えていってしまった。
「...大先生」
二人になった空間にゾムの声が響く。
鬱は肩を跳ねさせ、恐る恐るといった様子でゾムの顔を見上げた。
ゾムの口が開く。
「死なんといてな」
それは、ゾムからの切実な願いだった。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
